藤川大祐 授業づくりと教育研究のページ

藤川大祐のブログです。千葉大学教育学部教授(教育方法学、授業実践開発)。プロフィールは「このブログについて」をご覧ください。

アントレプレナーシップ教育のキーワードがなぜ「ゲーム」なのか

2月23日、ちばアントレプレナーシップ教育コンソーシアム Seedlings of Chiba による「ちばアントレプレナーシップ教育シンポジウム2021~VUCA時代を生き抜く子どもにワタシができること~」が開催され、私もパネリストとして登壇させていただきました。

 

ミクシィ社長の木村弘毅さんが幼い頃から多様な興味をもってなんでもやってみて、やがてゲームに夢中になってというご自身の話をしてくださり、「アントレプレナーシップ能力とは、言い出しっぺ能力」「発言と行動に責任をもつと、なりたい自分になれる」といった印象的な話をしてくださいました。パネルディスカッションでは、中小企業庁の宮本祐輔さんがデータに基づいて日本では創業支援はあるものの創業希望者が非常に少ないという話をしてくださったり、佐藤ねじさんのお子さんが小学校1年生のときに家庭内でコーヒー屋さんを始めた話をしてくださったりと、アントレプレナーシップ起業家精神)を育てるということについて、多面的に考えるきっかけを作っていただきました。会場には子育て中の方が多く参加してくださり、質疑応答の時間が足りなくなるほど、積極的にさまざまな質問をしていただきました。

 

こうした中、今日のシンポジウムの重要なキーワードは、「ゲーム」であったと思います。木村さんはゲームに熱中し、ゲームを扱う企業の経営をされています。会場からの質問でも、お子さんがゲームに熱中しているという話題がありました。他方で、私からは、西千葉子ども起業塾のプログラムをゲーミフィケーション(ゲームでないものをゲームとして捉え、改善すること)を大切にして開発・実施しているという話をさせていただきました。

 

以下、あらためて、「ゲーム」をキーワードに、私のアントレプレナーシップ教育についての考えを書かせていただきます。

 

私は、キャリア教育やアントレプレナーシップ教育を考えるにあたり、社会を「多重ゲーム社会」と考えます。そして、人々が幸せに生きるとは、自分に合うゲームや自分が選んだゲームを自発的な意志でプレイし続けることだと考えます。しかし、ともするとこの社会では、戦争、容易に抜け出せない貧困、親からの虐待等々、ゲームとして成立していないような悲惨な事態に巻き込まれ、その中でただただ苦痛を強いられる人が出てきてしまいます。それでも、「多重ゲーム社会」では、ゲームを変えるゲーム、あるいは、ゲームを作るゲーム(これらをひっくるめて、「メタゲーム」と呼びましょう)をプレイすることも許されます。現状で足りないもの、新しく必要になったものがあれば、そうしたものに対応できるように、ゲームを変えたり作ったりすることができるわけです。

 

アントレプレナーシップは、こうしたメタゲームをプレイする資質あるいはマインドのことだと言えるでしょう。起業する、創業するということは、既存のゲームを変えたり、新たなゲームを作ることだったりするはずです。

 

創業希望者が少ないという話からもわかるように、日本ではこうしたメタゲームに取り組むことは、あまり肯定的に捉えられていませんでした。政治的無関心が大きいという話などにも、通じるかもしれません。アントレプレナーシップ教育は、子どもたちにメタゲームをプレイすることの魅力を知ってもらい、メタゲームをプレイしてもらえるようにする営みだと考えることができます。

 

だから、アントレプレナーシップ教育は、大人の話を受け身で聞くようなものではなく、子どもたちが他ではなかなか経験できないような楽しいゲームをプレイし、そうしたゲームの中で大人たちと関わり、その大人たちが関わっているゲームについて知り、今ないゲームを作ることをも視野に入れて、自分がプレイするならどのようなゲームをプレイするのかを考えられるようなものにしたいと考えてきました。この意味で、アントレプレナーシップ教育には、ゲーミフィケーションが必要です。

 

西千葉子ども起業塾は、一定のルールの中で子どもたちが仕事をして利益を得ることを目指すゲームです。このゲームは大人社会に近いルールで動いており、仕事はBtoBで仕事相手は実際の企業です。実際の銀行の人が銀行役、実際の税務署の人が税務署役、実際の経営者の人が経営に関するアドバイザーになってくれます。デザインの仕事を発注する場合、プロのデザイナーに発注します。このような場でゲームが行われるため、子どもたちは多様な大人と関わり、交渉したり助言してもらったりすることになります。言わば、子どもたちは大人社会に近いルールで作られているゲームの中で、大人と一緒に遊ばせてもらえるのです。

 

今回のシンポジウムは、昨年12月に発足したちばアントレプレナーシップ教育コンソーシアム Seedlings of Chiba による実質的に最初のイベントでした。今後、千葉市がモデル地域となり、各地で特色のあるアントレプレナーシップ教育プログラムが実施されるようになることを願っています。

 

seedlings.jp