藤川大祐 授業づくりと教育研究のページ

藤川大祐のブログです。千葉大学教育学部教授(教育方法学、授業実践開発)。プロフィールは「このブログについて」をご覧ください。

ロシアのウクライナ侵攻 理念なき権威主義はどこに向かうのか

ロシアがウクライナに侵攻し、西側諸国が経済制裁等を進めているものの、ウクライナ国内の戦火が広がり、一般人の犠牲者が増えていることが連日報じられています。冷戦後の世界にあって、一つの国が他の国を公然と攻撃し、多くの国から批判されても攻撃が止まらないというのは、他にあまり例がないことです。私は教育に携わる者として、現に起こっているこうした問題について、自らの言葉で語らなければと考えてきました。稚拙かもしれませんが、考えていることを書いてみたいと思います。

 

ロシアと欧米など西側諸国が対立している構図は、権威主義と民主主義(あるいは自由主義)の対立として捉えられます。ロシアは自由や民主主義が制限されている権威主義政治の国であり、西側諸国は自由と民主主義という理念を共有している国で、双方の政治のあり方が対立していると見られるわけです。社会主義共産主義と資本主義との対立だった東西冷戦と、似た枠組みで捉えられるように見えます。しかし、現在のロシアには、冷戦期の社会主義のような理念はなく、自らの国のあり方を正当化することができていないように見えます。

 

ロシアがウクライナに侵攻した背景については、たとえば次の記事が私には納得のいくものでした。ロシアの「国外の同胞の権利、利益の保護、ロシア文化のアイデンティティの維持」という考え方からすると、ウクライナNATOに加盟することは何としても避けたかったということなのでしょう。

 

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しかし、他国から見ればこうしたロシアの態度は自国の勝手な都合で軍事侵攻をしたということにしかなりません。中国などロシアをやんわりと支持しているように見える国もありますが、理念なき侵攻について大っぴらに支持をすることはできないものと思われます。理念なきロシアは、この戦争がどうなったとしても、世界の中で孤立し、立ち往生していくのではないかとも思われます。

 

ただ、自国とか多数派の民族の都合で国を動かしたいという誘惑は、西側諸国にも見られ、近年はアメリカのトランプ政権やイギリスのEU離脱に代表されるように、非常に大きな力を発揮するようになっています。下記の書籍で言われているように、まさに「権威主義の誘惑」が西側でも政権に大きな影響を与えるようになっているわけです。

 

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アメリカはバイデン政権になり、昨年12月に「民主主義サミット」を開催するなど、民主主義の理念を掲げて権威主義の誘惑とは異なる路線に進もうとしているように見えます。とはいえ、「世界の警察」の役割を担わないこととしているアメリカは、アフガニスタンからの撤退に続いてウクライナにも軍事介入しないことを宣言し、あくまでも自国(や同盟国)の損得のために動くという立場をとっています。アメリカが「世界の警察」の役割を担わないのはよいとしても、理念なき権威主義国の他国への侵攻を抑止する仕組みがないのであれば、ロシア側からすれば、みんな自分たちの都合で勝手にやっていて五十歩百歩だという話になりそうで、嫌だなと思います。

 

下記の記事を見ると、今回の戦争が長期化しても、ロシアもアメリカも自国の経済においては困らないようです。戦争は強者には利益を生み、弱者からは多くのものを奪う、ということなのでしょうか。社会科教育や主権者教育で民主主義を無条件に肯定した議論をしている場合ではなく、民主主義の危機や権威主義の行く先について考えられるようにすることが、求められているのだと考えます。

 

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