藤川大祐 授業づくりと教育研究のページ

藤川大祐のブログです。千葉大学教育学部教授(教育方法学、授業実践開発)。プロフィールは「このブログについて」をご覧ください。

子どもの意見表明権とアドボカシー教育

千葉大学教育学部附属中学校では、大学と連携した授業がいろいろと行われています。その中で、ゼミ制で実施している全校の総合的な学習の時間の中に、大学院生の郡司日奈乃さんらが担当している「アドボカシー」ゼミがあります。「アドボカシー」とはもともと「擁護」とか「支援」という意味であり、支援を必要としている人のための政策実現活動と考えていただけるとよいと思います。アドボカシーゼミを選択したのは全校で3人だけですが、ここまで「起立性調節障害」に関わる問題について調査や提言作成の活動を精力的に進めてきました。

 

昨日9月14日は、総合的な学習の時間の各ゼミが1日全部使って学校外で活動ができる校外学習の日でした。アドボカシーゼミのメンバーたちは、午前中は千葉市議会、午後は文部科学省を訪問し、自分たちで作成した提言書を提出するとともに、文部科学省記者クラブで記者会見を行いました。千葉市議会では教育未来委員会所属の田畑直子議員と伊藤隆広議員が、文部科学省では伊藤孝江政務官が主に対応してくださり、それぞれ教育委員会事務局の方々や文部科学省の各担当の方々が陪席くださりました。記者会見も含めて生徒たちはかなり緊張している様子でしたが、皆様が生徒たちの話を真摯に聞いてくださり、生徒たちは自分の言葉でしっかりと考えを伝えていました。貴重な機会を与えてくださった皆様に感謝しております。

 

生徒たちの提言の内容は、以下に掲載されています。

 

www.change.org

 

また、昨日の文部科学省での記者会見等については、以下のメディアで報じられています。

 

共同通信
https://nordot.app/942714640207314944
(地方紙等のサイトにも同じ記事が掲載されています)

教育新聞
https://www.kyobun.co.jp/news/20220914_06/

日テレNEWS(動画あり)
https://news.ntv.co.jp/category/society/1b2143b14bcd481a90aadfef4da869ed
(系列局のサイトにも同じ記事が掲載されています)

東京新聞
https://www.tokyo-np.co.jp/article/202213

 

起立性調節障害というテーマは郡司さんが提案したものですが、生徒たちは強い関心をもってくれました。起立性調節障害についての無理解が偏見につながり悩んでいる人がいるという事実に対して、生徒たちはなんとかしたいと考えたようです。他の病気を経験していることから、切実に感じられたという生徒もいました。私自身、起立性調節障害への無理解からいじめ被害に遭った人の事例などにも関わってきましたので、このテーマは重要と考えています。

 

中学生が意見を発表するというと、しっかりと原稿を用意して読み上げるということが多いのかもしれません。しかし、今回生徒たちは自分の言葉で語ることとし、相手を意識して原稿に頼らずに考えを伝えていました。提言の内容についても、大人が作ることはせず、生徒たちが多くの方に話を聞き、指導者は原稿を整える手伝いをするという程度でした。

 

大学生などと異なり中学生は活動できる時間が限られ、今回の場合には基本的に授業時間のみに限られます。ですので、誰かに話を聞きに行くということはなかなか難しいのですが、コロナ禍になって以降はZoom等を使用したオンラインミーティングが容易に実施できるようになったため、時間や場所の制約があまり問題とならなかったように思われます。その上で、昨日のように終日校外で活動できる日が設定されていることから、その日に合わせて活動を組むことで、かなり自由度が高くなることがあらためて感じられました。

 

こども基本法やこども家庭庁ができて、子どもの意見表明権が注目されています。子どもの意見表明権の保障には、単に意見表明の機会を作るだけでは不十分であり、子どもたちがさまざまな問題について学び、さまざまな人と対話をして、自らの意見を深める過程が不可欠です。この意味で、私が長年関わっているディベート教育や、今回のアドボカシーゼミなどのように、子どもが社会問題について議論しながら学ぶ取り組みがもっともっと広がる必要があると考えています。

 

私の研究室では昨年度、「多様化時代における主権者教育に関する研究」を主題に研究プロジェクトを進めました。報告書が以下に掲載されています。

 

https://ace-npo.org/fujikawa-lab/other.html

 

アドボカシーについて実践的に学ぶ等、従前の「主権者教育」の枠にとどまらない実践研究を今後も進めていきたいと考えています。