藤川大祐 授業づくりと教育研究のページ

藤川大祐のブログです。千葉大学大学院教授(教育方法学、授業実践開発)。プロフィールは「このブログについて」をご覧ください。

学校のいじめ対応について学ぶ研修用ゲーム教材(デモ版)を公開します

本日から開催される日本デジタルゲーム学会にて、「学校のいじめ対応のゲームモデル化の検討」という発表を行います。関連の資料は以下の通りです。

 

予稿

スライド資料

 

この発表の中で、学校のいじめ対応をゲームとしてどのようにモデル化するかを検討しました。いじめが疑われる事態が生じて以降の学校の対応について、法に沿った対応をとる選択肢Aと法に沿わない対応をとる選択肢Bのどちらを選択するかという逐次選択ゲームとしてモデル化しています。当然、選択肢Aをとることが望ましいのですが、そこまでの対応の不足や学校の組織風土によっては、選択肢Bをとれないことがあります。そこで、一定の条件を満たさないと選択肢Aが選択できないようにしたり、組織風土の状態を反映した確率でしか選択肢Aが選択できないようにしました。

 

いじめを受けた児童生徒の苦痛は、容易には軽減しません。しかし、学校の対応に問題があれば、苦痛は急激に悪化します。このモデルでは、学校が選択肢Aをとると被害児童生徒の苦痛が微減し、学校が選択肢Bをとると被害児童生徒の苦痛が激増することとしました。そして、苦痛が一定以上になると、ゲームが「重大事態モード」に移行することとしています。

 

また、被害者側から学校への信頼も同様に、選択肢Aが選択されるとわずかに改善され、選択肢Bが選択されると大幅に悪化することとしています。信頼が一定以下になると学校の組織風土が悪化して法に沿った対応が困難になり、選択肢Aを選択することが非常に難しくなります。他方、選択肢Aが連続して選択されると、学校が法に沿った対応をとりやすくなる(組織風土が改善する)ということも組み込んでいます。

 

こうしたことを、抄録にあるように日本語でひたすら記述し、ChatGPT

(5.0)に、この記述に基づいたWebアプリをプログラミングするよう指示しました。一瞬でほぼ記述通りのプログラム・コードが作られました。Mac環境でプログラムを動かす方法やWeb上で公開する方法も、ChatGPTに教えてもらいました。UIを改善し、そのたびに出るバグをとるのに3時間ほどかかりましたが、ものの半日ほどでWebアプリが一応完成しました。私は本格的なプログラミングの経験がないのですが、ChatGPTと対話することでこうしたアプリができることは驚きでした。

 

以下のURLで、今回作成した学校のいじめ対応について学ぶ研修用ゲーム教材(デモ版)を公開します。streamlitという無料サービスを使用して公開していますので、私にも皆様にも課金されることはありません。

 

https://bullyinggamedemo-aww3kg3wp65w4lepzrxnz7.streamlit.app/

 

Webアプリの画面

 

最初にアクセスすると、プログラムが眠っているという表示が出るかもしれません。その場合には、遠慮なく起こす(wake up)ボタンを押してください。

 

このプログラムは研究用の試作品であり、広く研修で使うのであればもっと改善したほうがよいとは考えています。そうした前提ではありますが、改変・再配布は自由です。ただし、クレジットを必ず明記するようにお願いします。

なお、抄録やスライド資料中にも謝辞を書かせていただいている通り、この取り組みは、谷山大三郎さんらと進めている学校のいじめ対応に関する研修用ゲーム教材の開発プロジェクトの中で考えてきたことを踏まえた上で、藤川の責任であらためて学校のいじめ対応のゲームモデル化について最初から検討しなおしたものです。谷山さんをはじめプロジェクトの関係者の方々から多くの示唆を得ており、関係の皆様に感謝いたします。特に、ゲーム開発の専門家である広瀬眞之介さんと石神康秀さんからは多くのことを学ばせていただきました。お二人の専門性の高さに敬意を表するとともに、あらためて感謝いたします。

いじめ二次被害を防ぐためのチェックリスト

子どもいじめ防止学会が設立され、私も関わらせていただくことになっています。明日2025年7月12日(土)と13日(日)には設立記念大会が東京・国分寺東京経済大学で開催されます。私は13日に「いじめと学校」をテーマに教育講演を担当させていただきます。

 

ijimeboushi.org

 

教育講演に向けた準備の中で、インターネット上に現在公開されている重大事態報告書を集め、分析することをやってみました。6月23日現在、71件の報告書を確認することができました。学校や学校設置者の対応についての指摘事項を分析した結果、次のようなことがらが多く指摘されていることがわかりました。

 

同じようなことが多くの事例で繰り返し指摘されていることがわかります。
学校や学校設置者の対応にこのような問題があると、被害者側にはそのことが新たな苦痛を生じさせます。すなわち、学校や学校設置者が二次被害を生じさせることがあるわけです。この二次被害が深刻になることは、珍しくありません。
では、どうすればいいのか。指摘されている問題が一つも生じないように努めるしかないので、チェックリストが必要です。そこで試みに、GoogleのNotebookLMに71件すべての報告書を読んでもらい、ここで指摘されているような問題が生じないような学校・学校設置者向けのチェックリストを作ってもらいました。
以下がそのチェックリストです。
 
 
以下にも貼り付けておきます。活用していただけたら幸いです。
 
 

いじめ二次被害を防ぐためのチェックリスト

(2025.7.11 藤川大祐作成)

 

Ⅰ.いじめに関する基本姿勢と教職員の認識

いじめの定義の正確な理解と共有:

  • 教職員全員が、いじめ防止対策推進法に基づくいじめの定義(「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」)を正確に理解し、行為者の意図や行為の軽重ではなく、被害者の心身の苦痛に軸を置いて判断することを徹底しているか。
  • 「いじり」と「いじめ」を混同せず、「いじり」も人権侵害行為であるという認識を教職員間で共有しているか。
  • いじめはどの児童生徒にも、どの学校でも起こりうるものであるという危機意識を教職員全体が持っているか。
  • 教職員間でのいじめに関する認識、感度、共通理解が十分に図られているか。

 

いじめ予防教育の推進:

  • 「いじめはダメ」という抽象的な指導だけでなく、いじめが相手に与える影響や、共感性・規範意識を育む教育が日常的に行われているか。
  • 児童生徒一人ひとりの「違い」を肯定的に認め、多様性を尊重する教育が行われているか。
  • 加害生徒が抱える不安、不満、寂しさ、恐れといった「困り感」にも目を向け、その解消を目指す視点を持っているか。
  • 教職員自身が、児童生徒の前でいじめに類する行為を行わないよう細心の注意を払っているか。

 

Ⅱ.早期発見と情報共有

いじめアンケートの適切な活用:

  • いじめ発見の有効な手段として、アンケートを計画的・効果的に活用し、適切な頻度(例:月1回程度)で実施しているか。
  • アンケートの質問項目や形式に工夫を凝らし、児童生徒がいじめのサインやSOSを出しやすい状況を整えているか。
  • 少なくとも年1回は、アンケート用紙を保護者に持ち帰らせるなどして、保護者の考えも汲み取る工夫をしているか。
  • アンケート結果は、単純なチェックに留まらず、人間関係の変化や適応感の変化を読み取るなど、多角的に分析されているか。
  • 得られた情報は、速やかに教職員間で適切に共有されているか。

 

日常的な観察と情報収集:

  • 教職員が、日頃から危機意識を高く持ち、複数の目で児童生徒の様子を見守り、いじめの兆候の発見に努めているか。
  • 児童生徒が発する些細なSOSサイン(表情、態度、声の調子、行動の変化など)を見逃さず、迅速に対応しているか。
  • 教職員一人ひとりが、気になる情報や些細な変化でも抱え込まず、速やかに校内のいじめ対策組織に報告・相談する体制が確立されているか。
  • 児童生徒に関する情報を一元的に管理し、進級時の引き継ぎなどを含め継続的に活用できる仕組みを構築しているか。

 

Ⅲ.いじめ発生時の初期対応と組織的対応

迅速な事実確認と聞き取り:

  • いじめの訴えがあった場合、迅速に事実確認を開始しているか。
  • 被害児童生徒の主観的な苦痛や心情を十分に聴き取り、その言葉を疑ったり、否定したりせず、心理的ケアを考慮した聞き取りが行われているか。
  • 事実確認や聞き取りの過程で得られた情報は、適切に記録(録音・詳細なメモ)し、保管されているか。

 

校内組織の機能強化と連携:

  • いじめの疑いがある事案を含め、いじめ対策委員会(またはこれに準ずる組織)を迅速に開催し、個々の教員ではなく組織としていじめの有無を判断しているか。
  • いじめ対策委員会において、具体的な対応策の協議や役割分担が明確に行われているか。
  • 校内での情報共有が徹底され、教職員全員がいじめに関する最新の状況を把握しているか。
  • 管理職がリーダーシップを発揮し、組織的対応を主導しているか。

 

Ⅳ.被害児童生徒への支援と加害児童生徒への指導

被害児童生徒への徹底した支援:

  • 被害児童生徒の安全確保と心のケアを最優先し、専門家(スクールカウンセラー等)と連携して継続的な支援を行っているか。
  • 被害児童生徒の「謝罪を望まない」という言葉の真意を理解し、報復の恐れなどを払拭するための対応を講じているか。
  • 被害児童生徒に対し、学校がどのような対応を行うかを具体的に説明し、認識を共有し、安心感を与えているか。

 

加害児童生徒への適切な指導:

  • 加害児童生徒への指導が「単なる作文や反省文の作成」に留まらず、いじめ行為の根本的な原因や背景を深く掘り下げて解消しようとしているか。
  • 加害児童生徒が自身の行動が他者に与える苦痛や影響を十分に認識できるよう、具体的な教育的アプローチを行っているか。
  • 謝罪が形式的にならないよう、被害児童生徒の心情を考慮した上で、必要に応じて適切な場を設定しているか。
  • 加害児童生徒を安易に集団から排除せず、立ち直りを促す指導規範意識の育成や人間関係づくりの改善)を行っているか。
  • 被害児童生徒と加害児童生徒間で一貫性のある指導や対応が行われているか。
  • いじめの問題を被害者・加害者だけの問題にせず、クラスや学年全体で考え、集団としていじめを許さない環境を作る教育活動を行っているか。

 

Ⅴ.外部連携と設置者の役割

専門職の積極的な活用:

  • スクールカウンセラー(SC)、スクールソーシャルワーカー(SSW)、スクールロイヤー(SL)などの外部専門家との連携体制が構築され、その専門的知見が早期段階から十分に活用されているか。
  • SCが中立性を保ちつつも被害者の心情に寄り添うことができ、その報告が適切に共有され、対応に活かされているか。
  • 専門職の配置が十分であるか、または不足している場合に教育委員会が積極的な人的配置の工夫や予算措置を行っているか。

 

設置者(教育委員会等)による指導と確認:

  • 教育委員会が、学校のいじめ対応や認識不足を把握し、積極的に状況を把握・介入し、適切な指導や助言を行えているか。
  • 教育委員会と学校間の情報共有が迅速かつ十分に行われているか。
  • 教育委員会いじめ問題の解決を学校の責任に押し付けず、自らの主体性を発揮し、連携して取り組んでいるか。
  • 保護者や地域社会との連携を推進し、いじめ防止に向けた共通理解を図っているか。

 

重大事態への対応と第三者委員会の活用:

  • 重大事態の定義を正確に理解し、「いじめによる心身の苦痛」が疑われる場合は、いじめであるとの認知を躊躇せず、速やかに重大事態と認定しているか。
  • 重大事態発生後、早急に調査組織を立ち上げ、迅速かつ公平・中立な調査が行われているか。
  • 三者委員会の設置や運用において、中立性・公平性が確保され、調査の長期化を避け、証拠の散逸を防止するための体制が整っているか。
  • 三者委員会からの提言を真摯に受け止め、再発防止策として具体的に活用し、その実施状況を検証しているか。

 

Ⅵ.保護者・地域との連携と信頼関係構築

保護者への情報提供と丁寧な対応:

  • いじめの事案発生時、迅速かつ誠実に保護者へ連絡し、情報(いじめ行為、学校の対応方針等)を共有しているか。
  • 保護者の意見や要望を貴重な情報として受け止め、対等な関係性で対話し、不満や不安を解消できるよう努めているか。
  • 保護者同士の謝罪について、学校が一貫した判断を示し、事前の調整を十分に行い、関係悪化を招かないよう配慮しているか。
  • 子どもが親に隠そうとする心情(心配をかけたくない、報復の恐れなど)を理解し、保護者への情報共有の必要性を丁寧に説明しているか。
  • 保護者からの訴えを「クレーマー」などと安易に評価せず、その背景にある事情に思いを致しているか。

 

生成AIによる論文原稿チェック法(2025.2暫定版)

このブログを書くのがストップしている間に生成AIがどんどん進歩して、論文執筆などでも大いに使えるようになってきました。このところ研究室で論文集を作っていて自他の論文原稿をチェックする機会が多いので、生成AIを使った論文原稿チェックについて、メモ的に書いておきたいと思います。変化が早いのであくまでも暫定版です。セルフチェックやピアチェックに活かせればと思います。なお、未発表の原稿を扱うので、学習はなしで。使う生成AIは基本的に、ChatGPT 4oです。私の環境では有料版なので、無料版だと限界があるかもしれません。私は凝ったプロンプト・エンジニアリングは志向せず、自分が言いたいことをただプロンプトとして入れるという使い方をしています。

 

1. 全体についてざっくり聞く

 

まず、論文全体についてざっくりと聞きます。原稿ファイルを読ませた上で、

 

この論文を改善したいので、批判的に検討してください。

 

これくらいのプロンプトで、最初の一歩は十分かと思います。けっこう詳しく助言してくれます。

 

この論文を改善したいので、批判的に検討してください。
特に、誤字脱字、文法の誤り、用語の不統一、事実誤認等について念入りにチェックしてください。

 

とでもすると、細部までまあまあ教えてもらえます。

 

なお、論文の最初から20行くらいまでの区切りがよいところごとにChatGPTに読んでもらって、コメントをもらうことも有効です。私は素朴に次ように入れています。

 

この論文は妥当でしょうか?

(論文の一部をコピペ)

 

2. 大まかな知識を得る

 

自分にあまり知識がないことがらについて原稿で書かれている場合、ある程度の知識を知っておくとよいと思います。たとえば次のように問うて、おおまかな知識を得ておいてから原稿を細かく読むと読みやすいです。

 

最近の日本でのアントレプレナーシップ教育の研究状況を教えて。

中国の大学入試制度の概要を教えて。

 

3. 英文タイトルや英文要旨の確認

 

原稿のファイルを読ませて、

 

英文タイトルは妥当でしょうか。

英文要旨を批判的に検討してください。

 

というようなことを言えば、細かいところまで検討してもらえます。細かいところで疑問があれば、

 

◯◯という部分は△△の方がいいでしょうか?

◯◯という部分は複数形の方がいいでしょうか?

 

などと問えば判断しやすくなります。しつこく対話して、最善の英文表記を探しましょう。

 

なお、英文タイトルや英文要旨を生成AIに丸投げすると、単数・複数がおかしいなどの問題が生じやすいので、書くときに丸投げはせず自力でよく確認する必要があります。

 

4. 分析方法についての確認

原稿ファイルを読ませた上で、たとえば次のように問います。(分析方法)には、M-GTAKJ法、分散分析、対応のあるt検定等が入ります。

 

この原稿では(分析方法)が使われていますが、(分析方法)を採用したことは妥当でしょうか。また、(分析方法)による分析に関する記述は適切でしょうか。

 

自分がよく知らない分析方法が使われている場合には、次のように問います。

 

(分析方法)について私は知らないので、どのような分析方法か、詳しく教えてください。

 

その上で、原稿にこの分析方法が合っているのかを確認していきます。

 

5. 文献引用の確認は細かく

 

原稿で先行文献が引用され論じられているところでは、先行文献のpdfを読ませて、個々の文献について論じられている部分について次のように指示します。

 

添付の文献について、次のように言うのは妥当でしょうか。

(原稿の該当部分をコピペ)

 

先行研究のpdfがない場合には、引用元のページを写真撮影してスクリーンショットから文字認識をさせるなどして、前後の文脈も含めてテキスト化し、次のように指示します。

 

下の文献について、原稿のように言うのは妥当でしょうか。

文献:(文献のテキストをコピペ)

原稿:(原稿の該当部分をコピペ)

 

これのありがたいところは、先行文献の言語は問わないところです。中国語論文などについても、この方法でチェックしました。

 

なお、文献の翻訳も、翻訳アプリ等よりChatGPTの方がいい感じに訳してくれるように思います。外国語文献の場合、いったん関連部分を全部日本語訳してもらい、その上で細部の表現を確認するということも可能です。

 

6. 定義や説明の妥当性チェック

 

原稿中に出てくる専門用語等の定義や説明について、その妥当性をチェックする必要があります。まずは生成AIに定義や説明を述べてもらい、原稿の中の定義や説明と比較するとよいでしょう。

 

◯◯をどのように定義できますか。

◯◯について論文中で簡潔に説明するとしたら、どう説明しますか。

 

その上で、原稿中の定義や説明が独自のものだった場合には、

 

◯◯について「(原稿中の定義や説明)」と定義/説明することは妥当ですか?

 

と問います。この程度のやりとりをすれば、適切な定義・説明にたどりつけるかなと思います。

 

7. 参考文献リストの書式チェック

 

参考文献リストの書式が指定のものと違っていたりすることは多くあります。原稿のファイルを読ませた上で次のように問います。

 

参考文献リストの書式は以下の例に合っているでしょうか。おかしいところがあれば教えてください。

(指定の書式の例をコピペ)

 

あるいは、APAスタイルなどに決まっている場合には、シンプルに次のように問うてもよいでしょう。

 

参考文献リストの書式はAPAスタイルになっているでしょうか。おかしいところがあれば教えてください。

 

8. そして最後は念入りに通読

 

生成AIを使って上のようなことをすると、読んでいる人間としても原稿を細かく読む準備ができてきます。最後は人間が自力で、念入りに通読し、細部のチェックをしていきます。

 

個人的には、執筆者がこの程度のことをして原稿の完成度を高めてから提出してくれると助かるなあと思っています。

学校での生成AI活用について、今、考えていること

ブログに投稿することが久しぶりになってしまいました。この1年近く、文部科学省の「学校DX戦略アドバイザー」に任命いただいたこともあり、学校での生成AI活用について関わる機会が多くなり、このところ講演の機会が何度かあったので、現時点で考えていることを少し書いておきたいと思います。

 

まずは最新の講演資料を下に公開しておきます。

 

www.dropbox.com

 

この講演資料は、2024年2月14日に超教育協会のオンラインシンポジウムでお話しさせていただいた際の資料です。

 

lot.or.jp

 

現時点で、私が強調したいと考えている点は、以下の3点です。

 

第一に、生成AIとはどのようなものなのか、言葉の意味を確認することです。生成AIの場合には、「生成AI」という言葉よりも「GPT」、すなわち Genarative Pre-trained Transformer という言葉の意味を確認することが大切だと考えます。Generative(生成的な)という部分がどうしても注目されますが、私はむしろ Pre-trained(あらかじめ訓練された)とTransformer(変換するもの)という二つの語に注目したいと思います。

 

講演資料より


Pre-trained(あらかじめ訓練された)については、自然言語を大量に学んでいることに加え、間違った情報(まだある程度はありますが)や差別的・攻撃的な表現がかなり避けられるようにチューニングされていることが大きいと考えます。このため、ChatGPT等の生成AIは、バランスの取れた平均値のような回答をすることがかなりの程度、可能となります。この特性を踏まえておくことが、活用において重要です。

 

Transformer は、GPTのベースとなったGoogle開発の大規模言語モデルに付けられた名称です。この言葉の原義は「変換するもの」あるいは「形を変えるもの」です。Transformer は、自然言語を多次元ベクトルの数値的表現に変換し、そうした数値的表現で処理された結果を自然言語へとまた変換するものです。Transformer 内部では、似た意味を持つ自然言語が近い数値で表現されていて、その数値が処理されていると、想像することができます。生成AIを完全なブラックボックスとして見るのでなく、大まかにでもどのような処理をするものかという想像をしておくことが、教育場面での活用においては重要であるように思います。

 

第二に、「AIと人間との協働」という観点から、生成AIの活用を考えることが重要だと考えています。資料の中でも、藤井聡太さんの将棋、YOASOBIの音楽、大谷翔平選手のピッチングやバッティングについて、触れさせていただいています。

 

講演資料より

 

藤井聡太さんは、AIを活用し従来の将棋の常識とは違う戦い方を研究し、そうした戦い方を実戦で使えるようにしました。YOASOBIは、ボーカロイドに歌わせていたような楽曲を、人間であるikuraさんが歌うことで従来にない音楽を作っています。大谷翔平選手は、NHKスペシャル(下記)で報じられたように、コンピュータを使ってピッチングフォームやバッティングフォームの新たな可能性を研究し、新しいフォームをトレーニングすることで、大きく曲がる変化球「スイーパー」を投げたり(このことが負傷につながった可能性はありますが)、アッパースイングを基本にしても高めの球をホームランできるようになったりしました。

 

www.nhk.jp

 

このようにハイレベルな話でなくても、自分が苦手だけれども学びたいことを学ぶのに、生成AIは大きな可能性を導いてくれます。試みに、ChatGPT(無料で使えるGPT 3.5)で高校数学の微分をどのように学べるかやってみたのですが、次のようにすることでかなりのことができそうだということがわかりました。

 

  • 私は高校生で、数学が苦手です。微分がわからないので、微分をゼロから学ぶ方法を教えてください」と頼むと、基本概念の理解、微分の定義を学ぶ、微分の基本ルールを学ぶ、微分の計算例を解く、微分の応用を学ぶ、問題を解く、継続的な学習と実践といった方法で学べると教えてくれる。
  • 微分の基本概念について詳しく教えてください」と頼むと、詳しい解説をしてくれる。
  • そもそもなぜ微分を学ぶ必要があるのですか」と頼むと、関数の挙動の理解、自然理解や社会現象のモデリング、科学や工学の応用、応用数学への基盤といった意味があることを教えてくれる。
  • 歴史的には誰がいつ、微分ということを考えたのですか」と頼むと、アルキメデスニュートンライプニッツといった人が微分に関して行ったことを説明してくれる。
  • 微分は、世界中のどこの国でも同じように教えられているのですか?」と問うと、微分の原理は世界中で共通していて、どの国でも基本的には同様に教えられているが、教育方法やカリキュラムは違うかもしれない、と説明してくれる。
  • 微分の基本概念の理解を試すようなテストをしてください」と頼むと、練習問題をとりあえず5問出してくれる。

 

このように、疑問に思ったことを片っ端から質問し、習熟に必要な練習問題を解くといったことを、重ねていくことが可能です。高校までの教育内容や大学での一般教養程度のことであれば、このような形で、一人でハイスピードでの学習を進めることが可能ではないでしょうか。生成AIには言語や国の壁も基本的にはないので、他の国では同じようなことがどのように教えられているかを尋ねることも容易です。従来の学習環境では、教師に質問する機会は限られていたでしょうし、教師に答えられない質問には答えが得られないままとなりがちでした。しかし、生成AIを使えば、24時間いつでも、「そもそもなぜ?」とか「歴史的には?」とか「他の国では?」といったことまで含め、思いつく質問に対して瞬時にある程度の回答を得ることが可能です。このようにして、学習という営みをAIとの協働で行うことが可能であり、従来の学校ではできなかった学び方が可能になることが想像されます。

 

ただ、「AIと人間との協働」について、しっくり来る概念が今のところないのかなとも思っています。資料にもいくつか関連しそうな概念を書きましたが、ここで言いたいことにちょうど当てはまる概念はないように思います。

 

第三に、生成AIの活用には、鋭く質問することがかなり重要になるということがあります。プロンプトエンジニアリングということとも通じると思いますが、決して1回の入力で凝った回答を得るための技術ということでなく、粘り強く質問を重ねて、疑問を解決できるようにすることが重要だと考えています。

 

講演資料より

 

私は長く、教師の発問やディベート教育に関わってきており、質問の技術についてはいろいろな場面で扱ってきたつもりです。人間相手の質問では、相手に対する丁寧さが重要になりますが、生成AI相手であれば丁寧さをあまり考える必要はないので、ともかく根掘り葉掘り質問するということでいいのかなと考えています。

 

とはいえ、講演資料でも書いたように、いくつかポイントはあるのかなとも思います。生成AIにしつこく質問することで、こうした質問のスキルが身につけられると思いますし、そこに一定の丁寧さを加えれば、人間相手にも話を深める質問をすることができるようになることと思います。

 

日本社会では時として、「質問をするのは失礼」とされることがあります。あからさまに問うのでなく、察することが大切なのだと考えられることもあるように思います。授業や講演でも、なかなか質問が出ない場合があります。おかしな質問をして恥ずかしい思いをするくらいなら質問はしないほうがよい、と考えられることが多いのかもしれません。しかし、こうしたやり方を変えなければ、察したつもりで相手の考えを聞かないというようなことが繰り返され、結果的に権利侵害が横行することが続いてしまいます。生成AI活用が、質問するスキルを高める契機になるといいなと期待しています。

教員の働き方改革を確実に進めるために何が必要か?

教員の働き方をめぐる議論がいろいろと聞こえてきます。私は3月まで附属中学校の立場で、中学校の教職員とともに働き方改革に取り組んできました。そうした経験も踏まえ、働き方改革を確実に進めるには何が必要か、考えを書かせていただきます。

 

まず多くの方に知っていただきたいのは、残業手当を出さない代わりに4%相当の教職調整額を給与に上乗せする給特法の規定は、公立学校にしか適用されないということです。すなわち、私立・国立の学校では、残業が生じればそれに応じた残業手当を支給することが必要です。といっても、少し前までは、この辺りが曖昧でした。国立について言えば、法人化以前には給特法が適用されていたということもあり、公立学校と同様に4%相当を給与に上乗せする代わりに残業手当を出していないところが多かったのではないかと思います。

 

しかし、最近になって国立学校でもきちんと残業手当を払うことが当然となりつつあります。このため、国立学校ではかなり本気で働き方改革を進めることが必要となってきました。

 

では、どうするか。重要なことは、必要なことは基本的にすべて勤務時間の中に入れるようにするということです。そうしなければ、勤務時間からはみ出た分がすべて手当の対象となって、人件費が大変なことになります。とはいえ附属学校は教育実習指導もあり、毎日の業務を常に8:00-16:45の勤務時間におさめることは非現実的です。ですので、まずは労使協定で変形労働制を導入し、繁忙期は勤務時間を+1時間、余裕のある時期には勤務時間を-1時間とする措置をとります。その上で、次のようなことが必要となります。

 

・部活動は朝練なし、平日は週3回までで16:45まで。

・職員会議などの全員出席の会議は勤務時間内に終える。(そのために会議の準備をしっかり行う。)

・テスト問題の作成や採点などに時間が必要な時期には、そのために放課後に部活動や会議等を入れない日を設ける。

・少人数の定例の会議は、時間割を調整して、毎週の時間割の中に入れる。

 

他方、突発的な生徒指導等で時間外の対応が必要な場合には、必ず時間外手当を支給するようにします。

 

こうしたことをしながら、何が時間外にはみ出るのかを確認し、勤務時間内に入れる方法を考え、どうしてもはみ出る分については残業手当の対象とするしかありません。たとえば、中学校3年生の進路業務については、どうしても残業が多くなるのが現状です(高校入試に関する業務はそれだけ中学校教員の負担となっています)。

 

公立学校の状況を聞いていると、業務を基本的に勤務時間内に入れるという発想がそもそもないことを感じます。勤務時間外に朝練やら部活動やら会議やらが普通に入っているようですし、授業準備等に使える空き時間が全然足りない状況もあるようです。それでいて、実働時間を減らすという掛け声はかかっているので、多くの教員が持ち帰れる仕事は持ち帰って、見た目の実働時間を減らすということになっているのではないでしょうか。

 

教員の働き方改革について私が特に強調したいのは、次の3点です。

 

・同じ職種であるはずの学校教員について、公立には給特法があり、国立・私立にはないというのは異常です。法の下の平等に反するのではないでしょうか。

働き方改革を実質的に進めるには、学校設置者(教育委員会等)や校長が、必要なことはすべて勤務時間内に入れることを覚悟するしかないはずです。これまでの慣例にとらわれず、考え方を変える必要があります。

働き方改革に関する指標として、実働時間(在校時間)ばかりを見ると、持ち帰り仕事が増えるだけになる恐れがあります。教員の満足度等の他の指標に着目する必要があるはずです。

 

こうした点を踏まえて、対応を進めていただけることを切に願っています。

 

(追記)

1点書き忘れていました。いろいろと工夫しても、毎日6時間の授業を入れて、他の業務を勤務時間内に入れるのはかなり厳しいです。新年度当初の準備時間が短いという別の問題も踏まえ、学校の授業が現状で基本的に年間35週分であるのを33週分くらいに減らせるといいなと思います。4月の開始を4月10日くらいにして余裕をもって準備できるようにするとともに、午前授業の日を年間10日くらい増やして、教員が授業以外の業務に専念できる時間を捻出するのです。夏休みでいいではないかと思われるかもしれませんが、夏休みはまとまった会議や研修をする必要もありますし、有給休暇をとりやすくすることも必要なので(専任の教員に法的義務である年間5日の有給休暇をとってもらうのも大変です)、夏休みにできることは限られます。

企業教育研究会20周年で、なぜ「教育をアップデート」なのか

2023年度、私が理事長をつとめるNPO法人企業教育研究会は、20周年記念イベントとして、7回連続セッション「#日本の教育をアップデートする」を開催します。

 

ace-npo.org

 

企業教育研究会がNPO法人としてスタートしたのは、2003年3月。当時、私の研究室に所属していた学生たちが、企業と連携した授業づくりを進めるためには法人格が必要だと考えて組織を作ったことが始まりでした。千葉大学からはさまざまなスタートアップ企業が生まれていますが、企業教育研究会も千葉大発のスタートアップ企業の一つです。その後、文部科学省のキャリア教育事業を受託したり、さまざまな企業との連携で授業づくり・教材づくりを進めたりして、今では10名ほどの専従職員を雇用する法人となっています。

 

当時から私たちが掲げた目標が、「誰もが教育に貢献する社会」を作ることでした。この20年の間に、間違いなく企業による教育への貢献は進みましたし、企業教育研究会としても多くの学校に、学校が求めている教材やプログラムを届け続けてきました。その成果は、決して小さくないと考えています。

 

しかし、20周年に向けて、竹内正樹事務局長を中心に法人としてのあり方を議論する中で、私たちは、果たしてこのレベルで満足してよいのだろうかと自問自答しました。私たちは、たとえ学校にお金がなく教員に余裕がなくても学校が新しい取り組みをできるようにと、社会の変化に伴って必要と考えられる教材やプログラムを学校に届けてきたつもりです。でも、この20年の間に、学校をめぐる状況はどんどん厳しくなり、学校が柔軟に新しい内容の授業を取り入れることが難しくなってしまっています。私たちには、もっとやれることがあるのではないか。私たちは考えました。

 

2023年度、私たちは20周年企画として、産学官連携で、重要な教育課題について多くの方々と情報交換、意見交換をすることにしました。この連続企画が突破口となり、学校が、多様な人々の協力を得て、新しい取り組みを進めることができるように、学校を、社会を変えていきたい、と考えています。

 

連続企画の第一弾は、本日4月22日(土)14時から、千葉大学教育学部にて開催です。テーマは「#起業家教育」。2010年度から千葉市千葉大学では連携して「西千葉子ども起業塾」を開催しており、今では「ちばアントレプレナーシップ教育コンソーシアム Seedlings of Chiba」に多くの主体が集って起業家教育を進めています。そして、企業教育研究会は、アクセンチュア、Seedlings of Chibaなどと協力して、中学生向け起業入門プログラム「ひな社長の挑戦」を開発し、全国の学校等に教材の無料配布を始めています。

 

ace-npo.org

 

本日の企画第一弾では、千葉市の神谷俊一市長に特別スピーチをいただき、アクセンチュアの藤井篤之さん、文部科学省の加藤浩介さん、中小企業庁の宮本祐輔さん、千葉大学IMOの片桐大輔さんに、産官学それぞれのお立場から起業家教育の最先端のお話をうかがいます。そして、会場の皆様とともに、情報交換、意見交換を進めていきます。

 

起業家教育は、起業する人を増やすための教育というより、子どもたちがエージェンシーを発揮できるようにするための教育であると、私は考えています。「エージェンシーのダンス」という言葉がありますが、起業(擬似)体験の中で、子どもたちがエージェンシーを解放し、新しいことを進めようとする大人たちとともにダンスをすることで、エージェンシーが発揮される体感を獲得することが、私の考える起業家教育です。今日は、そんな話もできたらと思っています。

 

連続企画は4月から12月まで(8月・9月を除く)、毎月1回、産官学からさまざまな方々をお招きして実施する予定です。皆様とお目にかかり、議論できることを、楽しみにしています。

ChatGPTに教育行政は追いつけるのか?

ChatGPTなどの生成AIの性能が高く、ものすごい勢いで広がっています。

ChatGPTを使えば小学生の読書感想文などはもちろん、大学の授業のレポートなども容易に書けてしまうので、これまでの教育のやり方はそのまま通用しなくなります。文部科学省はChatGPT等について学校向けの指針を作ることを検討するとのことですが、検討と言っているうちに事態はどんどん進んでしまいそうです。教育行政が社会の変化にどう追いつくかはこれまでも課題だったと思いますが、教育行政のスピードアップはこれからはもっと頻繁に問われることとなりそうです。

 

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私はここ2ヶ月ほど、ChatGPTでいろいろと試しています。たとえば、「「親切、思いやり」をテーマにした、小学校4年生対象の道徳の授業1時間分の学習指導案を作ってください。」と入れると、瞬間で次のような学習指導案的なものが出力されます。(この記事中ではすべてGPT3.5を使用)

 

【授業の目標】 本授業を通して、生徒たちは「親切」と「思いやり」が何であるかを理解し、自分たちにできることを考え、行動できるようになることを目指す。

【授業の流れ】

  1. 挨拶・目的説明(5分)  教師が生徒たちに挨拶をし、本日の授業の目的について説明する。

  2. ワークシート「親切と思いやり」(20分)  教師が「親切」と「思いやり」についての定義を説明し、生徒たちはワークシートを用いて、自分たちが思い浮かべる「親切なこと」「思いやりのあること」を記入する。

  3. グループワーク「親切な行動を考えよう」(25分)  生徒たちはグループに分かれ、ワークシートで書いた内容を元に、自分たちができる「親切な行動」を考える。その後、グループ内で発表し、クラス全体で共有する。

  4. 総括(10分)  生徒たちが考えた「親切な行動」を振り返り、今後の実践につながるように、まとめを行う。

  5. 感想(5分)  生徒たちが授業について感じたことや、学んだことをまとめ、発表する。

【授業の詳細】

  1. 挨拶・目的説明(5分)  
    ・教師が挨拶をし、生徒たちに授業の目的を説明する。  
    ・「親切」と「思いやり」について、生徒たちがどのようなイメージを持っているか尋ねる。

  2. ワークシート「親切と思いやり」(20分)  
    ・教師が「親切」と「思いやり」について、それぞれの定義を説明する。  
    ・生徒たちは、ワークシートに書かれた質問に答え、自分たちが思い浮かべる「親切なこと」「思いやりのあること」を記入する。  
    ・時間が余った場合は、答え合わせを行う。

  3. グループワーク「親切な行動を考えよう」(25分)  
    ・生徒たちは、ワークシートで書いた内容を元に、グループに分かれて自分たちができる「親切な行動」を考える。

    ・グループ内で話し合い、アイデアを出し合う。教師はグループの進捗を見ながら、必要に応じてアドバイスを行う。  
    ・各グループが考えた「親切な行動」を、発表する時間を設け、クラス全体で共有する。  
    ・発表の際には、他のグループのアイデアに対して、感想や意見を述べることができるようにする。

    1. 総括(10分)  
      ・生徒たちは、今回のグループワークで出たアイデアを振り返り、まとめを行う。  
      ・教師は、生徒たちが考えた「親切な行動」をもとに、今後の実践につながるように、まとめのアドバイスを行う。

    2. 感想(5分)  
      ・生徒たちは、授業について感じたことや、学んだことをまとめ、発表する。  
      ・教師は、生徒たちの感想を聞きながら、今後の授業に生かすためのフィードバックを行う。

    【補足説明】

    ・ワークシートやグループワークで、生徒たちが自分たちで考えることを促す。
    ・発表の時間を設け、生徒たちがお互いのアイデアを聞くことができるようにする。
    ・感想の時間を設け、生徒たちが授業について自分なりの考えをまとめることを促す。
    ・教師は、生徒たちが考えたアイデアや感想をフィードバックし、今後の授業に生かすためのアドバイスを行う。

 

小学生なのに「生徒」とあることは気になりますし、何の教材も使わないのか等、気になる点はあります。ただ、チャットでやりとりすれば、(それなりの癖はあるのですが)修正なり追加なりはしてもらうことが可能です。

 

現状で、ChatGPTは、2019年くらいまでの知識で広く知られていることがらについては、それなりの回答を瞬時に提供してくれます。ポイントは、瞬時ということです。人間がそれなりに調べてそれなりに文章を作るとなれば、得意分野で専門家が質にこだわらずやっても30分とか1時間はかかることが、瞬時にできてしまうわけです。電卓とかワープロソフトとか表計算ソフトとか検索サイトが私たちの作業に要する時間を劇的に変えたように、あるいはこれら以上に、ChatGPTにはインパクトがあります。

 

このことは、私たちの価値の体系を大きく変えることを意味するだろうと思います。「調べてまとめて伝える」ということが、21世紀初頭までは人間の活動として大きな価値が認められていたと思いますし、学校教育でも重視されるようになりました。しかし、「調べてまとめて伝える」だけであれば、今後その価値は限りなくゼロに近づきます。「調べてまとめて伝える」ことの先に何があるのかを、問う必要があると思います。

 

では、その先には何があるのか。私は「オタク的体験」が重要と考えています。何かにマニアックに没入する体験が情報に還元できない個人の強みとなり、ChatGPTが得意な平均的な考え方とは違うその人固有の考え方につながるのだろうと思っています。

 

ちなみに、私はある時期数学オタクでいろいろな本を読み漁っていたので、そのオタク経験を活かして、附属中学校長時代に全校集会等でその日の日付の数字にまつわる数学的な話題を出したりしていました。先日3月31日が離任式だったので「31」あるいは「331」にまつわる面白い問題をChatGPTに作ってもらおうとして試行錯誤したのですが、全然ダメでした。そして自分で思いついた「31も331も3331もすべて素数ですが、3...31という形式の数はすべて素数でしょうか」という問題をChatGPTに出したのですが、全然解いてもらえませんでした。問題を解くことは今後もっとできるようになるかもしれませんが、気の利いた問題を作ることはおそらくそう簡単にはできないと思います。なぜならそんなこだわりをもって数学の問題を作ろうとする人が稀で、関連する情報が少ないからです。

 

さて、このように自分の考えをとりあえず書いてみるのですが、最近はここで不安になります。ChatGPTはどう回答するのだろうと気になってしまうのです。今回も、「ChatGPTが一般化して「調べてまとめて伝える」ことの価値は相対的に低くなり、教育においては「調べてまとめて伝える」ことを目標とするのでなくその先のことを目標とする必要があると思われます。「調べてまとめて伝える」ことの先の目標として教育が目指すべきことは何でしょうか。」と尋ねてみました。すると、「批判的思考力を養う」「クリエイティブ思考力を養う」「コミュニケーション能力を養う」が考えられるという回答が得られました。これが平均的な回答なのだとわかれば、ひと安心です。「オタク的体験」という私の考えは、平均的な回答とは違いますし、平均的な回答とある程度関連づけて深められそうだということがわかります。

 

ということで、ChatGPTをどうするかというような問題は、自分でオタク的にハマる体験をしてみて考えるべき問題なのだと思いますが、文部科学省はこうした問題にスピード感をもって対応せよというのは無理な話なのかなあと心配しています。