藤川大祐 授業づくりと教育研究のページ

藤川大祐のブログです。千葉大学教育学部教授(教育方法学、授業実践開発)。プロフィールは「このブログについて」をご覧ください。

ChatGPTに教育行政は追いつけるのか?

ChatGPTなどの生成AIの性能が高く、ものすごい勢いで広がっています。

ChatGPTを使えば小学生の読書感想文などはもちろん、大学の授業のレポートなども容易に書けてしまうので、これまでの教育のやり方はそのまま通用しなくなります。文部科学省はChatGPT等について学校向けの指針を作ることを検討するとのことですが、検討と言っているうちに事態はどんどん進んでしまいそうです。教育行政が社会の変化にどう追いつくかはこれまでも課題だったと思いますが、教育行政のスピードアップはこれからはもっと頻繁に問われることとなりそうです。

 

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私はここ2ヶ月ほど、ChatGPTでいろいろと試しています。たとえば、「「親切、思いやり」をテーマにした、小学校4年生対象の道徳の授業1時間分の学習指導案を作ってください。」と入れると、瞬間で次のような学習指導案的なものが出力されます。(この記事中ではすべてGPT3.5を使用)

 

【授業の目標】 本授業を通して、生徒たちは「親切」と「思いやり」が何であるかを理解し、自分たちにできることを考え、行動できるようになることを目指す。

【授業の流れ】

  1. 挨拶・目的説明(5分)  教師が生徒たちに挨拶をし、本日の授業の目的について説明する。

  2. ワークシート「親切と思いやり」(20分)  教師が「親切」と「思いやり」についての定義を説明し、生徒たちはワークシートを用いて、自分たちが思い浮かべる「親切なこと」「思いやりのあること」を記入する。

  3. グループワーク「親切な行動を考えよう」(25分)  生徒たちはグループに分かれ、ワークシートで書いた内容を元に、自分たちができる「親切な行動」を考える。その後、グループ内で発表し、クラス全体で共有する。

  4. 総括(10分)  生徒たちが考えた「親切な行動」を振り返り、今後の実践につながるように、まとめを行う。

  5. 感想(5分)  生徒たちが授業について感じたことや、学んだことをまとめ、発表する。

【授業の詳細】

  1. 挨拶・目的説明(5分)  
    ・教師が挨拶をし、生徒たちに授業の目的を説明する。  
    ・「親切」と「思いやり」について、生徒たちがどのようなイメージを持っているか尋ねる。

  2. ワークシート「親切と思いやり」(20分)  
    ・教師が「親切」と「思いやり」について、それぞれの定義を説明する。  
    ・生徒たちは、ワークシートに書かれた質問に答え、自分たちが思い浮かべる「親切なこと」「思いやりのあること」を記入する。  
    ・時間が余った場合は、答え合わせを行う。

  3. グループワーク「親切な行動を考えよう」(25分)  
    ・生徒たちは、ワークシートで書いた内容を元に、グループに分かれて自分たちができる「親切な行動」を考える。

    ・グループ内で話し合い、アイデアを出し合う。教師はグループの進捗を見ながら、必要に応じてアドバイスを行う。  
    ・各グループが考えた「親切な行動」を、発表する時間を設け、クラス全体で共有する。  
    ・発表の際には、他のグループのアイデアに対して、感想や意見を述べることができるようにする。

    1. 総括(10分)  
      ・生徒たちは、今回のグループワークで出たアイデアを振り返り、まとめを行う。  
      ・教師は、生徒たちが考えた「親切な行動」をもとに、今後の実践につながるように、まとめのアドバイスを行う。

    2. 感想(5分)  
      ・生徒たちは、授業について感じたことや、学んだことをまとめ、発表する。  
      ・教師は、生徒たちの感想を聞きながら、今後の授業に生かすためのフィードバックを行う。

    【補足説明】

    ・ワークシートやグループワークで、生徒たちが自分たちで考えることを促す。
    ・発表の時間を設け、生徒たちがお互いのアイデアを聞くことができるようにする。
    ・感想の時間を設け、生徒たちが授業について自分なりの考えをまとめることを促す。
    ・教師は、生徒たちが考えたアイデアや感想をフィードバックし、今後の授業に生かすためのアドバイスを行う。

 

小学生なのに「生徒」とあることは気になりますし、何の教材も使わないのか等、気になる点はあります。ただ、チャットでやりとりすれば、(それなりの癖はあるのですが)修正なり追加なりはしてもらうことが可能です。

 

現状で、ChatGPTは、2019年くらいまでの知識で広く知られていることがらについては、それなりの回答を瞬時に提供してくれます。ポイントは、瞬時ということです。人間がそれなりに調べてそれなりに文章を作るとなれば、得意分野で専門家が質にこだわらずやっても30分とか1時間はかかることが、瞬時にできてしまうわけです。電卓とかワープロソフトとか表計算ソフトとか検索サイトが私たちの作業に要する時間を劇的に変えたように、あるいはこれら以上に、ChatGPTにはインパクトがあります。

 

このことは、私たちの価値の体系を大きく変えることを意味するだろうと思います。「調べてまとめて伝える」ということが、21世紀初頭までは人間の活動として大きな価値が認められていたと思いますし、学校教育でも重視されるようになりました。しかし、「調べてまとめて伝える」だけであれば、今後その価値は限りなくゼロに近づきます。「調べてまとめて伝える」ことの先に何があるのかを、問う必要があると思います。

 

では、その先には何があるのか。私は「オタク的体験」が重要と考えています。何かにマニアックに没入する体験が情報に還元できない個人の強みとなり、ChatGPTが得意な平均的な考え方とは違うその人固有の考え方につながるのだろうと思っています。

 

ちなみに、私はある時期数学オタクでいろいろな本を読み漁っていたので、そのオタク経験を活かして、附属中学校長時代に全校集会等でその日の日付の数字にまつわる数学的な話題を出したりしていました。先日3月31日が離任式だったので「31」あるいは「331」にまつわる面白い問題をChatGPTに作ってもらおうとして試行錯誤したのですが、全然ダメでした。そして自分で思いついた「31も331も3331もすべて素数ですが、3...31という形式の数はすべて素数でしょうか」という問題をChatGPTに出したのですが、全然解いてもらえませんでした。問題を解くことは今後もっとできるようになるかもしれませんが、気の利いた問題を作ることはおそらくそう簡単にはできないと思います。なぜならそんなこだわりをもって数学の問題を作ろうとする人が稀で、関連する情報が少ないからです。

 

さて、このように自分の考えをとりあえず書いてみるのですが、最近はここで不安になります。ChatGPTはどう回答するのだろうと気になってしまうのです。今回も、「ChatGPTが一般化して「調べてまとめて伝える」ことの価値は相対的に低くなり、教育においては「調べてまとめて伝える」ことを目標とするのでなくその先のことを目標とする必要があると思われます。「調べてまとめて伝える」ことの先の目標として教育が目指すべきことは何でしょうか。」と尋ねてみました。すると、「批判的思考力を養う」「クリエイティブ思考力を養う」「コミュニケーション能力を養う」が考えられるという回答が得られました。これが平均的な回答なのだとわかれば、ひと安心です。「オタク的体験」という私の考えは、平均的な回答とは違いますし、平均的な回答とある程度関連づけて深められそうだということがわかります。

 

ということで、ChatGPTをどうするかというような問題は、自分でオタク的にハマる体験をしてみて考えるべき問題なのだと思いますが、文部科学省はこうした問題にスピード感をもって対応せよというのは無理な話なのかなあと心配しています。