藤川大祐 授業づくりと教育研究のページ

藤川大祐のブログです。千葉大学教育学部教授(教育方法学、授業実践開発)。プロフィールは「このブログについて」をご覧ください。

6/29「朝ズバ」で石川県のケータイ禁止条例についてコメント

 昨日行われたメディアリテラシー教育研究会で、TBS系「朝ズバ」の取材を受け、石川県の小中学生に携帯電話所持を原則禁止する条例についてコメントしました。明日6月29日(月)のおそらく7時30分から8時30分のどこかで放送される予定です。本件についてはこのブログにもコメントをいただいており、コメントくださった皆様に感謝申し上げます。

 いろいろとお話ししたのでどの部分が使われるかはわかりませんが、私が特に申し上げたのは、以下の2点です。

自治体の役割は規制をすることでなく、教育の推進を含めた環境整備をすることにつとめるべきであろう。

・学校現場や地域で、「持たせないものについての指導は必要ない」という風潮が生じて、子どもたちへのメディアリテラシー教育が停滞してしまう可能性がある。

 あわせて、このブログのコメント欄にお書きいただいたご疑問について、以下の点を回答させていただきます。

1.今回の条例案では、議員提案でパブリック・コメントを受け付けることもなされていないようですし、いくつかの団体がこの条例を可決しないように要望する文書を出しているとも聞いています。十分に議論をせずに多数決で規制を決めるということは、自由主義国家における民主主義のあり方としておかしなことです。

2.他に表現の手段があるとしても、表現の自由を制限することが正当化されるわけではありません。経済活動の自由が公共の福祉のために制約されうることは当然ですが、現状で携帯電話の売買を公共の福祉のために制約してよいと考えるのは難しいでしょう。携帯電話以上に、地域社会での自動車の運転や子どもの自転車の使用は、交通事故によって多くの死傷者を出している危険なものです。しかし、石川県では県内での自動車の利用や子どもの自転車の使用を制限していないのではないでしょうか。多くの人名にかかわる自動車や自転車は容認して、それ自体が命を奪うわけではない携帯電話だけを制限するというのは、「法の下の平等」に反する偏ったやり方です。

3.改正条例が施行されれば、「危ないから使うな」という方向の指導は多くなるかもしれません。しかし、「メディアの向こう側の人を意識する」とか「効果的に情報を発信する」といった教育が進むとは考えにくいでしょう。「学校への携帯電話持ち込み禁止」が話題になって以降、すでに「持ち込み禁止にしているのだから指導する必要はない」という話が学校現場や地域で出ていることをよく聞きます。まして、使用禁止ともなれば、当然、子どもへの教育は遅れます。

4.罰則がないこと、保護者の携帯電話を継続的に借用することが制限されていないことから、ある程度意識の高い保護者が携帯電話を持たせない方向に動く可能性はあります。しかし、子どもの携帯電話使用に関する深刻なトラブルは、ルールも決めずに買い与えてその後も家庭内でのコミュニケーションが不十分であるような家庭で生じやすく、そうした家庭に対しては条例の効果はほとんどない可能性があります。

5.改正条例が施行されても中学校までで子どもたちのメディアリテラシーを高める教育が十分行われるのであれば、高校1年生が初心者ばかりでも深刻なトラブルは起きにくいのかもしれません。しかし、これまで述べたように、教育が十分に行われるとは考えにくいです。

6.携帯電話に関わる犯罪は深刻です。私もさまざまな事件の当事者の話を聞いています。だからこそ、学校での教育を進め、保護者が無責任に携帯電話を買い与えないようなしくみをつくり、子どもが利用するサイトの安全性を高め、学校や地域で大人が連携して問題に対応できるしくみをつくっていく必要があるのです。今、多くの関係者が問題解決に向けて尽力しています。条例で規制する程度で問題が解決するとは考えにくいから、教育関係者、有識者、業界関係者、行政関係者等の多くの人々が連携して取り組んでいるのです。