藤川大祐 授業づくりと教育研究のページ

藤川大祐のブログです。千葉大学教育学部教授(教育方法学、授業実践開発)。プロフィールは「このブログについて」をご覧ください。

東京都青少年保護条例改正案(携帯電話関連)についての意見(第2案)

 3月15日(月)、都議会民主党にうかがい、東京都青少年保護条例改正案(携帯電話関連)について意見を述べることとなりました。多くのご意見、ご指摘をいただき、ありがとうございました。以下に第2案を掲載します。

 本日夕方には資料を送付したいと思いますが、当日口頭で補足することも可能ですので、ご意見があれば引き続きこのブログへのコメントもしくはtwitterでお寄せください。

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東京都青少年保護条例改正案(携帯電話関連)についての意見

-首都にふさわしい、全国の動きと連携した実効性のある取り組みを-

2010年3月15日

千葉大学教育学部准教授 藤川大祐

<自己紹介>

東京都渋谷区出身、東京都品川区在住。専門は教育方法学、授業実践開発。

警察庁バーチャル社会のもたらす弊害から子どもを守る研究会」委員(2006年)、千葉県青少年健全育成計画策定委員会委員長(2006年~2008年)、千葉県青少年を取り巻く有害環境対策推進協議会委員(2007年~)、文部科学省「ネット安全安心全国推進会議」委員(2007年~)、安心ネットづくり促進協議会コミュニティサイト検証作業部会主査、NPO法人企業教育研究会理事長、NPO法人全国教室ディベート連盟常任理事、日本メディアリテラシー教育推進機構(JMEC)理事長等をつとめる。

著書 『ケータイ世界の子どもたち』(講談社現代新書、2008年)、『本当に怖い「ケータイ依存」から我が子を救う「親と子のルール」』(主婦の友社、2009年)他

1.多様な主体が連携して、取り組みが進められています

 2007年以降、学校、地域、官庁、事業者、第三者機関等が連携して、青少年が安全に使えるネット環境づくりに取り組み、次のような成果を上げています。

文部科学省「ネット安全安心全国推進会議」の設置、多くの都道府県での有害情報対策コンソーシアム設置、安心ネットづくり促進協議会の発足等、関係者が連携して対策を協議する場の充実。

青少年インターネット環境整備法の制定による、基本的な方針の法制化。

出会い系サイト規制法改正による規制強化により、出会い系サイトをめぐる犯罪が減少。

文部科学省による子どもの携帯電話等利用状況の調査等による実態の把握。

・「ネット上のいじめ」や「学校裏サイト」についての調査、啓発等が進み、問題事例が減少。

・学習指導要領改訂で学校における情報モラル教育強化が進められ、各種教材開発も進む。

・フィルタリングに関する改善や啓発が進み、フィルタリング加入者が激増。

・EMA等の第三者機関発足やサイト運営事業者、監視事業者等の取り組みの充実により、コミュニティサイトにおけるトラブル抑止が進む。

 これらの対策が進んでも、まだ課題があります。現在対策が進行中もしくは検討中の課題としては、以下のものがあります。

・非出会い系のコミュニティサイトで生じている福祉犯を中心とした事件・トラブルが、どのようなサイトでどのように起こっているか、そしてどのように抑止できるか。

・携帯電話契約時やサイト利用時の利用者の年齢確認をいかに徹底させ、年齢に合わせたサービスの提供を可能とするか。

・情報モラル教育を中心とした教育・啓発を子どもや保護者等にどのように進めるか。

 この種の問題は、「規制か、自由か」の二分法では解決しません。上記についても、総務省文部科学省安心ネットづくり促進協議会をはじめ、さまざまな場で関係者が慎重に、バランスのとれた対策を協議し、少しずつ実行しているところです。東京都がこうした動きと無関係に強い規制をかければ、関係者の努力が報われず、意欲をそぐこととなりかねません。東京都は多様な主体と効果的に連携して、首都にふさわしいリーダーシップをとるべきです。

2.今回の条例改正案では、研究不足、準備不足が目立ちます

 今回の条例改正案には、研究不足、準備不足な点が目立ち、このまま成立、施行されてしまえば、混乱を生じさせるばかりで、問題解決につながらないと考えられます。以下、例を挙げます。

(1)「携帯電話端末等の推奨」は的外れな対策

 都が青少年の利用に配慮されている携帯電話等端末を推奨することが盛り込まれていますが、青少年が適切に利用できるかどうかは端末によって決まるより契約形態によって決まることが多いものです。一般向けの携帯電話でも、メールと通話だけの契約、フィルタリングや迷惑メール防止機能をつけた契約等、子どもの能力に応じた安全な契約が可能です。他方、子ども向けの端末でも、フィルタリングを解除すれば有害情報にアクセス可能です(当初からウェブアクセス機能を除いている場合等を除く)。都が推奨した端末が事件に使われたら、都の威信は地に落ち、状況は大きく混乱してしまいます。

 文部科学省「ネット安全安心全国推進会議」が配布しているリーフレット「ちょっと待って、はじめてのケータイ」でも、端末でなく契約形態を検討することを促しています。昨年4月15日の衆議院青少年問題に関する特別委員会でもご紹介いただきましたが、携帯電話会社がつとめるべきは、各種安全策を青少年の年齢に合わせてわかりやすく提供することです。

(2)「インターネットの利用に関する啓発についての指針」は時期尚早

 青少年に対する教育・啓発を進めることは非常に重要ですし、その指針を定めるべきことに理解はできます。しかし、実効性のある指針を定めることは容易ではありません。

 すでに、学習指導要領では情報モラル教育に関する事項が多く盛り込まれ、各教科や総合的な学習の時間に加え、道徳においても指導がなされることになっています。東京都が学習指導要領よりも踏み込んだ指針を適切に定めることがいかにして可能なのでしょうか。すでに、NHK文部科学省をはじめさまざまな主体が多くの教材や指導案を開発し、実践が進められています。都が行うことはいきなり指針を定めることでなく、すでに開発されているものから学ぶことです。

 誰がどのように指針を審議し決定するのかが、案には示されていません。ともすると恣意的に都の気に入らない教育内容や教材を排除するために条例が悪用されるのではないかという懸念も聞かれます。現段階で指針を定めるには準備不足であり、時期尚早です。

(3)フィルタリング厳格化には大きな穴がある

 フィルタリング解除手続の厳格化の方向を、私は基本的に支持します。しかしながら、今回の案には穴があり、青少年がトラブルや犯罪に遭うことを防止するための効果的な策になっているとは考えられません。

 教育関係者も警察関係者も一致するのが、「携帯電話に関する研修会に出るような熱心な保護者の家庭ではあまり問題は起きず、大人の集まりに協力せず子どもともきちんとかかわらない保護者の家庭で問題が起きやすい」ということです。淫行や児童買春、暴力事件等が深夜外出によって起こることが多いこと、携帯電話を多く使っている子どもほど夜更かし傾向があり、ストレスを抱えていること等から、家庭環境に問題を抱えている子どもを地域社会でケアすることが、問題を抑止するために必要なことです。

 今回の案には、大きな穴があります。保護者が面倒な手続を嫌い、子どもが使うことを販売店に告げずに保護者名義で携帯電話を契約してしまえば、何の手間もなくフィルタリングなしの携帯電話を子どもに与えることができるのです。あるいは、都が認める解除理由を安易に使い、無責任な保護者ほど子どもにフィルタリングなしの携帯電話を使わせる恐れもあります。こうした懸念から保護者への指導・助言を定めているのかもしれませんが、犯罪や非行に関わった青少年に対しては従来の枠組みで対応すべきであり、実効性のない項目を紛れ込ませたとしか考えられません。

 フィルタリングの加入率を上げることは重要ですし、現在の加入率は低すぎます。しかし、都が認めた事情でなければ解除させないとか、解除関係の管理を事業者に委ねるといったことを定めても混乱するだけです。まして、都が事業者に立ち入り検査を行うというのは、不当な介入です。たとえば、「特別な事情がない限りフィルタリングに加入させる」という努力義務を保護者や事業者に課し、2~3年は研究を進めつつ様子を見るという方法もありえます。

3.青少年インターネット環境整備法を尊重した取り組みを

 超党派議員立法で成立した青少年インターネット環境整備法が昨年4月1日に施行され、多くの主体がこの法律を尊重して取り組みを進めています。東京都も、この法律を尊重して取り組みを進めるべきです。しかしながら、今回の改正案ではこの法律の趣旨を踏みにじる内容が多く見られます。

 同法第3条では「主体が世界に向け多様な表現活動を行うことができるインターネットの特性に配慮し、民間における自主的かつ主体的な取組が大きな役割を担い、国及び地方公共団体はこれを尊重することを旨として行われなければならない。」とあります。にもかかわらず、今回の改正案では、フィルタリングの内容、フィルタリング解除の際の「正当な理由」の基準等、都が民間の取り組みに介入することにつながる記述が見られます。そもそも都は青少年インターネット環境整備法に従って取り組みを進めるべきであり、独自の内容の条例を定めて民間に介入しようとすることは許されるものではありません。憲法94条に定められた「法律の範囲内で条例を制定することができる」という規定にも反するものです。

 こうした方向になった背景には、東京都青少年問題協議会の議論のあり方に関する問題があると言えます。青少年問題協議会の答申では、フィルタリングに都が介入する、親が子どもの携帯電話の内容を無断で見てもよいといった、青少年インターネット環境整備法違反、さらには憲法違反とも言える内容が含まれていました。青少年問題協議会の委員構成や事務局体制を抜本的に見直し、規制・介入ありきの発想でなく、多様な主体と連携した実効性ある取り組みを進められるようにすることが必要です。

<資料>

(略)

追記 2010年3月12日14時頃、誤字を修正しました。