藤川大祐 授業づくりと教育研究のページ

藤川大祐のブログです。千葉大学教育学部教授(教育方法学、授業実践開発)。プロフィールは「このブログについて」をご覧ください。

選択授業「社会とつながる数学」 「完全数」の授業

 「素数と暗号」に続いて行った「完全数」の授業(45分1コマ)についても書いておく。「完全数」とは6や28のように、自身を除く正の約数の和が自身と一致する自然数のことである。ギリシア時代から研究されており、ユークリッドの『原論』にも記述がある。完全数が無限にあるか否か、そして奇数の完全数があるか否かは、現在でも未解決問題となっている。

 授業ではまず6を例に完全数ギリシア時代から研究されていること、現在でも無限にあるか否か等が未解決問題であることを話す。そして、最初の6つの完全数を記したプリントを配布し、6つの数の共通点を検討させる。

6

28

496

8128

33550336

8589869056

 「下1桁が6か8」ということは出るもののそれ以上生徒からはアイデアが出ないので、素因数分解をするよう指示する。以下のようになる。(ただし、2以外で割り切れるかどうかについては確かめなくてよいことを言う。)

6 = 2・3

28 = 2^2・7

496 = 2^4・31

8128 = 2^6・127

33550336 = 2^12・8191

8589869056 = 2^16・131071

 それぞれ、2のべき乗と一つの素数の積らしいということがわかってくる。その一つの素数には共通の性質があり、2^n-1の形になっていることを確認。各完全数を以下のように表せることがわかる。

6 = 2・(2^2-1)

28 = 2^2・(2^3-1)

496 = 2^4・(2^5-1)

8128 = 2^6・(2^7-1)

33550336 = 2^12・(2^13-1)

8589869056 = 2^16・(2^17-1)

 これらはすべて 2^(n-1)・(2^n-1) (nは素数)という形になっていることがわかる。しかし、この形にあてはまる数すべてが完全数となるわけではなく、たとえば、n=11のときには完全数とならない。

 ユークリッド『原論』の段階ですでに、2^(n-1)・(2^n-1) (nは素数) で 2^n-1が素数となるときには完全数となることがわかっていたことを紹介。後にメルセンヌが2^n-1 (nは自然数)の形の数を研究し、この形の数が「メルセンヌ数」と呼ばれ、素数となるメルセンヌ数を見つけることが完全数の研究となったことを話した。これまでの学習から、生徒たちがこのような巨大な数の研究が容易ならざることを想像しやすくなっており、現代では高性能の計算機を使って大きなメルセンヌ素数を見つける競争がなされているということを話した(この点で完全数が社会とつながっているという話でもある)。

 この授業は、未解決問題を扱っている。入口は理解しやすく奥が深いこの種の未解決問題は、正解の決まっている問題しか知らなかった生徒たちの数学観を変えうるものだと考えている。