藤川大祐 授業づくりと教育研究のページ

藤川大祐のブログです。千葉大学教育学部教授(教育方法学、授業実践開発)。プロフィールは「このブログについて」をご覧ください。

青少年のLINE利用に関する現状での見解

最近、青少年のアプリLINE利用に関わる問題がさまざま報じられており、学校現場の教員からも児童生徒のLINE利用への対応に悩んでいるという声をよく聞きます。少し前はLINEが不特定の相手との出会いの手段として使われ、児童買春や淫行といった福祉犯事件につながることが注目されていましたが、LINE側が18歳未満の利用者のLINE ID利用制限の方針を打ち出す等、福祉犯対応については進展が見られます。他方で、LINEがネットいじめにつながることが注目されるようになっています。

この問題について意見や説明を求められる機会が多いので、現時点での私の見解を書いておきます。

1)LINEが従来のSNSと大きく異なるのは、「プッシュ型」ということです。SNSであれば投稿を監視し、問題ある投稿を削除する方向での対策が可能でした。しかし、LINEでは発信者がメッセージを送った直後に、受信者の端末にメッセージがダウンロードされることとなります。ですので、投稿を監視して削除するという対応はほとんど意味をなしません。プロバイダ責任制限法でサイトへの人権侵害となる投稿には削除ができること等が定められていますが、LINEではこうした対応がほとんどできないことになります。

2)LINEは基本的に一対一でのコミュニケーションのツールであり、グループ機能はありますがそれも一対一でのコミュニケーションの延長上にあると考えられます。このため、LINEにおいて通信の内容を監視しようとすれば、それは電話、手紙、電子メール等の内容を監視することとの区別が困難であり、LINEに監視を求めることにはかなりの無理があります。また、外部からネットパトロールをすることもできません。この点で、学校ネットパトロールによってネットいじめを解決するという方向では、LINEに関わるネットいじめには対応できないこととなります。

3)犯罪性がある場合とそうでない場合とを分けてかんがえることが必要です。たとえば、LINEでのやりとりが恐喝に使われているとか、LINEで児童ポルノが送信されているといった問題があれば、しかるべき手続をとって警察が捜査することは現状でもかなりできるでしょう。曖昧な点や不足があれば、議論して制度を整えることは難しくないはずです。他方、仲間はずれ等に犯罪性はないでしょうから、内容を確認して対応することは非常に困難です。

4)ネットいじめの実態については、定期的に調査がなされるべきです。おそらく現状でも、把握されているネットいじめ年間約3000件の中で、ネットパトロールによって発覚したケースは少数でしょう。教師や保護者が児童生徒から話を聞いたとか、たまたま会話が耳に入ったとか、あるいは体調不良を訴えてきた子どもから聞いたといった形で発覚することが多いと考えられます。調査をした上で、効果的な対策を検討する必要があります。

5)いじめ全般がそうであるように、LINEが関わるネットいじめに関する対策も、学級の中でのコミュニケーションを充実させる方向が有効にあると考えられます。LINE(のようなアプリ)でのコミュニケーションからいじめが深刻化していく様子をドラマ教材にして、ドラマを視聴して学級で話し合うといった教育が必要です。ネットで攻撃されて大きなトラウマを負って苦しんでいる人の話や、ネットでの攻撃で検挙された加害者のその後のような話も教材化されるとよいでしょう(交通安全対策のように)。こうした授業(そして、保護者対象の啓発)が全国各地の学校でできるような環境整備が求められます。

6)LINE側のシステムの修正で状況の改善がはかれるのであれば、LINEに対して提案することも考えられてよいでしょう。たとえば、深夜までの利用で問題ある投稿が多くなるのであれば、年齢に応じて深夜の利用を制限することはできるかもしれません。子どもたちにたくさん議論してもらい、そこから出てきたものをふまえて、改善できるところを探していくことには意義があります。

以上です。この件について取材依頼等がある場合には、上記をふまえていただければ幸いです。