藤川大祐 授業づくりと教育研究のページ

藤川大祐のブログです。千葉大学教育学部教授(教育方法学、授業実践開発)。プロフィールは「このブログについて」をご覧ください。

9月入学制の論じ方について

9月入学制について、5月22日の教育新聞「オピニオン」欄「9月入学、デメリットは少ないのではないか」で、具体的な提案を書かせていただきました。この中で、以下の私案を示させていただいています。

  1. 2020年度末を21年8月とする。21年度より、学校の年度を9月から翌年8月までとする。
  2. 20年度については、すでに休校措置で学習が進んでいない部分があること、今後も分散登校や再度の休校措置が必要となる可能性があり、学習進度を高めるのに限界があることを踏まえ、夏休みの過度な短縮などをせず、21年6月くらいまでかけて教育課程を進める。ただし、高校3年生や大学4年生などについて、教育課程の進行に無理がない場合には、3月に卒業することを認め、4月からの就職が最大限可能であるようにする。
  3. 小学校入学時期は、21年度は4月1日時点で6歳の者、22年度は5月1日時点で6歳の者というように年齢基準時期を1カ月ずつ遅らせ、2026年度より9月1日時点で6歳の者とする。
  4. 入試、公務員試験など、児童生徒学生に関わる試験のスケジュールは、20年度実施のものについては可能な範囲で、21年度以降実施のものについては原則として全て実施時期を現状より4~6カ月程度遅らせる。
  5. 教職員の任期、定年などは基本的に5カ月遅らせる。定年については、今後の公務員の定年延長などがなされる中で、適宜調整する。
  6. 20年度は1年5カ月となるが、授業料などは1年分のままとする。学校が負担すべき5カ月分の人件費などについては政府が必要な補助を行う。
  7. 未就学児が増えることによる保育ニーズの増大に関して、幼稚園・保育園などへの助成拡大、家庭で乳幼児を養育する保護者への支援措置の対応を行う。
  8. この他、社会を挙げて9月入学制に合わせた制度の変更を行う。

私としては、このくらいの具体案をもとに、期間を決めて、9月入学制導入か否かの議論を行い、早めに結論を出すべきだと考えます。

なお、上記の案では、未就学児にしわ寄せが来てしまうのではないかと考えられます。私としては、少なくとも今の学年は今の学年のまま来年8月まで過ごし、今の年長の学年にあたる子どもたちだけが来年度小学校に入学するという上記の方法は比較的問題が少ないのではないかと考えました。その上で、来年9月以降は、小学校入学時期に合わせて幼稚園等の学年を再編成することとし、今から子どもたちが学年の枠を越えて交流する等の配慮をしておくことで対応可能だろうと考えています。しかし、この方法では今の年少や年中の子どもに混乱が生じるというご意見もあるかと思います。そういうことであれば、2023年度までは4月1日時点で6歳の者が小学校に入学することとし、その後に年齢基準時期を1ヶ月ずつずらす措置をとるということにしてもよいと考えます。その場合、上記の案より移行が終わるのに2年多くかかりますが、現時点での年少児以上の学年には学年分断等の影響は生じないこととなります。

また、大学卒業の時期については大学で基本的に自由に決められますので、現在の在学生については、4年生に限らず、在学期間が4年となる年度の3月で卒業することを認めてよいと考えます。

「9月入学の議論は今ではない」という意見もあるようですが、現状で休校措置や分散登校等の影響で学校生活に大きな支障が生じているこの状況にどう対応するかという面が大きいので、今きちんと議論がなされるべきです。特に、今年度中に実施される入試の時期をどうするかに関わるので、むしろ早急に議論する必要があるはずです。

9月入学制については留学に関するメリットが多く指摘されていますが、私は現状の4月入学制にはいろいろと課題があると考えています。主なものとして以下があります。

・入試の時期が冬で、インフルエンザや雪害の影響が大きい。
・夏休みが年度途中なので、夏休み前にいじめ等の問題を抱えていた子どもたちは、夏休み明けに不安を抱えやすい。
・以前より夏がかなり暑くなっている中で、部活動のメインの大会が夏になっており、健康管理が難しい、
・教職員側が新年度の準備をする時間が短い。特に、新採用の教員は数日の準備のみでいきなり教員として教壇に立つこととなり、無理がある。

9月入学制にすると、上記のような問題が解消されます。小中高などの1年間の動きは次のようになります。なお、3学期制でなく前期・後期の2期制を前提としています。

8月 基本的に夏休み。新採用の教員には研修期間を設け、異動の教員には早めに内示を出す等して、新年度の準備に時間がとれるようにする。
9月 新年度開始。夏休み明けであるが、子どもたちは学年が変わって気分を新たにこの時期を迎えられるため、不登校や自殺等のリスクは低減される。
10月〜11月 運動会や文化祭、修学旅行等の学校行事をこの時期と4〜5月とを中心に実施。ゴールデンウィークで時期が分断されることがない一方、適度に祝日があり、無理なく学校生活を送りやすい。部活動の秋季大会(従来の夏季大会に相当)も土日祝日等を活用して実施し、中高の3年生の部活動はこの時期を区切りとする。部活動の全国大会は11月から12月の土日や祝日を活用して実施することを原則とする。
12月 地域によるが、20日頃から冬休みに入る。
1月 地域によるが、成人の日くらいまでを冬休みとし、長めの冬休みに地域行事、社会教育活動等等を入れやすくする。
2月 2月末をもって前期修了。特に前期と後期との間の休みは設けない(数日確保してもよいかもしれない)。
3月 3月1日より後期開始。推薦入試等の入試がこの頃から始まる。
4月〜5月 運動会や文化祭、修学旅行等の学校行事を実施。また、ゴールデンウィークを中心に部活動の春季大会従来の秋季・冬季の大会に相当)を実施。
6月 入試を主にこの時期に実施。
7月 中旬で授業終了、その後は夏休み。

このようにすると、現状の4月入学制に見られた問題は、以下のようにほとんど解消されることとなります。

・入試の時期は6月となり、梅雨ではあるものの、台風は少ない時期で、インフルエンザや雪害等の影響はない。
・夏休みが年度の区切りとなるため、夏休み前にいじめ等の問題を抱えていた子どもが不安を抱えたまま過ごす必要がなく、新たな気持ちで9月を迎えやすい。(冬休みを長くするプランにしているが、それでも3週間程度であり、現在の夏休みの半分である。)
・部活動のメインの大会を秋季と春季の気候がよい時期に設定できる。野球の甲子園大会もメインは11月から12月の週末にすれば、酷暑の中、高校生が連日試合をするような無理をすることが避けやすくなるだろう。
・教職員が余裕をもって新年度の準備をできるようになる。

季節感が大きく変わり、生活科などが困るだろうという論点はあります。ただ、温暖化で季節感がかなり変わってきていることもありますので、これを機に季節感の捉え方を変えるとともに、小学校1年生から2年生にかけて連続的に学習を進める等の工夫が可能と思われます。

なお、大学に関しては現状でも9月入学を取り入れているところがあり、基本的に前期と後期を逆転させ、時期を微修正することで対応可能であろうと考えられます。具体的には、9月から12月が前期、成人式に配慮して少し長く冬休みをとり、1月中旬から5月末までを後期、6月から8月は集中講義や留学等の期間とすることが可能です。もちろん、2〜3ヶ月ごとに区切って授業を行うことも可能でしょう。

以上のように具体的なイメージを描いた上で、以下の二つの選択肢のどちらがよいかを論じるべきです。

A) 2020年度を2021年8月まで延長し、2021年度から9月入学制を導入する。
B) このまま4月入学制を維持する。

ただし、Bは単なる現状維持ではありません。すでに休校措置や分散登校で、小中高などの教育課程には大きな遅れが生じています。秋以降に新型コロナウイルスの第二波が生じて、ふたたび休校措置が必要となる可能性も残っています。こうした状況の中で、今年度の教育活動をどのように成立させるかもあわせて検討しなければなりません。現状では夏休みの大幅な縮減や来年度以降への教育内容持ち越しが提案されていますが、こうしたやり方で第二波に対応ができるかどうか不明ですし、夏休みが短くなることによる子どもたちの健康面への影響も心配です。Aであれば5ヶ月の余裕ができるのですから、こうした問題はありません。

Aのデメリットは、手間と費用だけです。もちろん手間や費用は膨大でしょう。この手間や費用をBによる今年度のかなり無理のある学校生活とのどちらをとるかという選択になるのだろうと思います。

私は、ここまで述べてきたような具体的なイメージを描きつつ、AがBよりずっとよいと考えますが、みなさんはいかがでしょうか。