藤川大祐 授業づくりと教育研究のページ

藤川大祐のブログです。千葉大学教育学部教授(教育方法学、授業実践開発)。プロフィールは「このブログについて」をご覧ください。

教員養成制度をいじるのでなく、新任教員の無理ゲーを変えることを

文部科学省が、教育実習を学校体験活動に転換することの検討を始めたことが報じられています。

 

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文部科学省はこれまでも繰り返し、教員の資質向上を議論しており、教職課程の単位を増やしたり、「コア・かリュキュラム」なるものを定めて教職科目の内容を厳格化したり、研修制度の充実を進めたりしてきています。教員免許更新制の廃止で少しは落ち着くのかと思われたのですが、今度は教育実習について大きな変更を議論するようです。

 

もちろん教員養成のあり方についてはさまざまな工夫があってよいのですが、それは各大学が工夫すればよいのであり、国で一律で大きな変更を議論する必要はないはずです。これまで文部科学省が検討すればするほど大学の裁量の余地がなくなり、大学側で創意工夫がしづらくなっています。制度をいじれば、大学側としては制度変更のためのコストが生じます。特に教育実習は地域の教育委員会や学校との関係にも関わるものですので、変更コストが膨大です。

 

そもそも、教員養成の制度を大きく変えなければならないほど、教員の資質に問題があるということが、立証されていないように思います。教員の不祥事があったり教員の病気休業や早期退職があるということはわかりますが、そうしたことを教員全体の資質の問題とするのはかなり無理があります。教員志望者が減り、採用倍率が下がっていて、教育委員会の側が教員を選ぶことが難しくなっていることによって、教員としての適性が疑わしい人をも採用せざるをえなくなっているということで、かなり説明がついてしまうようにも思われます。

 

教員の置かれている状況を考えれば、新任の教員の多くは、無理なゲーム、すなわち無理ゲーを強いられていると言えるのではないでしょうか。4月1日に採用され、4月6日くらいからは一人前の教員として児童生徒の指導を始めなければなりません。新任でいきなり学級担任を任せられることも多く、単学級の小規模校では学年主任までを担わされます。日々の授業だけでなく、学校の事務、学級運営、校務分掌等が一気にスタートします。これで問題なく勤務時間中に仕事を進めろというのは、まさに無理ゲーです。

 

大学での教員養成をどう変えても、4月初旬からいきなりスタートする無理ゲーに対応する人材を育成するというのは、無理な話です。教員になっていない状況で、いくら実践的なことを大学のカリキュラムに取り入れても、実際にやってみることができない中で身につくはずはありません。そして、大学でなければ学べないことも多く、広く教養を学んだり、専門的なことがらについて深く学んだり、研究方法を学んで卒業論文を書いたりといったことも必要であるため、実践的なことばかりに使える時間は限られています。4年間のカリキュラムという制約の中で、何をどのように教えるかは大学が判断すべきことであり、各大学で多様性があってもよいところであるはずです。

 

文部科学省が行うべきは、新任教員の無理ゲーを変えることです。教員の働き方改革全般を勧めることはもちろんですが、小学校教科担任制や中学校複数担任制等を活用して新任者が(単独では)学級担任をもたなくてよいようにするとか、大学と連携して3月から新卒教員を仮採用して現場で業務を経験してもらうとか(教員免許を2月末までに発行できるように制度を変えて、3月からは有給で採用できるようにする等を検討する)、検討の余地はいろいろとあるはずです。無理ゲーに手をつけずに教員養成制度をいじるのは、変更コストが生じるだけで、何の改善にもならないのではないでしょうか。