藤川大祐 授業づくりと教育研究のページ

藤川大祐のブログです。千葉大学教育学部教授(教育方法学、授業実践開発)。プロフィールは「このブログについて」をご覧ください。

総務省の地上デジタル放送政策は根本的に間違っている

 昨年12月1日、地上デジタル放送が、一応始まった。「一応」と書いたのは、視聴可能地域が東京・愛知・大阪等の一部地域にすぎず、しかもいくつかの民放局がハイビジョン番組を送出できない状態でのスタートだったからだ。

 総務省は、2006年までに全国で地上デジタル放送を開始し、2011年には現在の地上アナログ放送を停止すると発表している。だが、2011年のアナログ放送停止など、とうてい不可能であろう。

 2000年12月に始まったBSデジタル放送の普及について、総務省は当初、「1000日で1000万世帯」を目標に掲げていた。だが、この目標は半分以下にとどまった。「スカパー!」と違ってチューナーが高価なままだったのに加え、番組内容に魅力がなかったからである。

 総務省は、BSデジタルの失敗に懲りていない。懲りていれば、こんなに無理をして地上デジタル放送を導入するはずはなかった。地上デジタル放送は、基本的に地上アナログ放送と同じ番組を、一部ハイビジョンにしたりデータ放送をつけたりして行う放送である。当面は、地上デジタル放送でなければ見られない番組はない。現状では録画もたいへんだし、4月からはコピー制限がかかり、ダビングもDVDに焼くことも難しくなる。このような地上デジタル放送が、2011年までに普及すると考える根拠は、いったい何なのだろうか。

 なお、地上デジタル放送の放送開始地区が限られているのは、アナアナ変換という作業を国が膨大な費用をかけて行っているからである。各家庭のテレビやビデオのチャンネル変更の費用を国が出すなどというのは、言語道断だ。十分な周知期間を取り、首相が国民に直接訴える等の手段をとって、時期を決めていっせいにチャンネル切り替えを各家庭で行ってもらえばよいではないか。せめて、チャンネル変更のボランティアを募集し、支援する等のことを国がやればよい。こういうものは政府がやらないほうがずっと効率的なのだ。(アンテナをつけかえざるをえない家庭については、アンテナ交換費用を請求させ、のちに還付すればよい。)

 ともかく、地上デジタル放送は始まってしまった。スケジュールは見直すにしても、地上デジタル放送を育てていく必要があるであろう。だが、そのためには思い切った策が必要だ。

 私が考えるのは、多チャンネル化を活かし、「全国の全地上局の番組を全国で視聴可」にすることである。高速交通が発達し、インターネットも普及している現在、日本は心理的にはとても狭くなった。だが、テレビだけは、他地域のローカル番組の視聴ができないのである。全国各局に標準チャンネル1チャンネルを割り当て、ローカル番組はそれぞれ放映する。全国ネットの番組のときには、系列のどの局を見ても同じ番組が流れ、もとがハイビジョンならハイビジョンになる。ただし、CMは地域ごとに変えてもよいだろう。

 これでは東京キー局ばかりが生き残ると思われるかもしれない。だが、各地で売れている新聞がローカル紙である現状を見れば、地域情報のニーズは高い。県域を越えた合併を進めつつ、各地の局が独自性を出していくことは可能である。当初はチャンネルの確保が無理だが、アナログ放送をやめるまでに段階的に進めていくことは可能だ。

 全国どこにいても全国の放送が見られるなら、「地上デジタルを見たい」と思う人は激増するはずだ。自分の出身地や知人のいる地域のローカル番組をそのまま見られるなんて、なんと魅力的ではないか。(名古屋では、TBS系やフジ系の全国ネット巨人戦が放映されず、中日戦が放映されることが多かった。このような場合、たとえ「スカパー!」に入っても、トップ&リレー中継しかなく、中心の時間が見られないのである。私が名古屋に住んでいたときの最大のストレスは、東京のテレビが見られないことであった。このような思いをする人は、きっと少なくない。)