藤川大祐 授業づくりと教育研究のページ

藤川大祐のブログです。千葉大学教育学部教授(教育方法学、授業実践開発)。プロフィールは「このブログについて」をご覧ください。

日本テレビが遵守すべき放送基準について

 日本テレビ「スッキリ!!」の件に関して、日本テレビの放送基準がどのようになっているかを確認しておきます。  日本テレビは「個々の番組および広告の放送にあたって守るべき基準の細目については「日本民間放送連盟・放送基準」を準用するものとする。」としています(日本テレビ番組基準より)。基本的に民放各局は民放連の放送基準を準用するということにしているようです。  民放連の放送基準は、こちらに掲載されています。こちらには、解説文も掲載されています。  放送基準の第2条には「個人・団体の名誉を傷つけるような取り扱いはしない。」とあり、第32条には「ニュース報道にあたっては、個人のプライバシーや自由を不当に侵したり、名誉を傷つけたりしないように注意する。」とあります。さらに、第48条には「不快な感じを与えるような下品、卑わいな表現は避ける。」とあります。  情報バラエティ番組は「ニュース報道」とは区別されるのではないかとも考えられますが、第31条解説には「ドキュメンタリーや情報系番組においても虚偽や捏造が許されないことはもちろん、過剰な演出などにならないように注意する。」とありますから、情報バラエティ番組が第32条の規定を免れるとは考えられません。  今回の「スッキリ!!」におけるコメンテイター、勝谷誠彦氏の発言は私のコメントVTRを受けて「ほんと馬鹿な論議してるね、あの先生、俺ちょっとおかしいんじゃないかと思うね」と言っていました。これは明らかに、個人の名誉を傷つけるような取り扱いであり、下品な表現であると考えますが、日本テレビはそうは考えないのでしょうか。  勝谷氏は私の発言を誤解していたために、こうした発言をされたと考えられます。しかし、たとえ誤解がなく、事実に基づいて同様の発言を行っていたとしても、個人の名誉を傷つけるものであることに違いありません。第2条の解説では「名誉毀損は、公然と事実を摘示し、個人や団体、法人などの「社会的評価」を低下させるおそれのある状態を生じさせることによって成立する」と書かれています。事実を提示して社会的評価を低下させるおそれのある状態を生じさせることが名誉毀損であると、明記されています。  昨日お話しさせていた管理職の方は、こうしたことを全く理解されていませんでした。日本テレビが放送基準に従って放送していると言うのであれば、勝谷氏の発言を放送し、少なくとも2日間、特に何の対応もしなかったことが、放送基準第2条、第32条、第48条に違反しているか否かについての説明がなされてしかるべきです。情報バラエティ番組担当の管理職がこうした説明ができずに、何のための放送基準なのでしょうか。  放送による人権侵害については、BPO(放送倫理・番組向上機構)の放送人権委員会が対応しています。対象について「名誉、信用、プライバシー、肖像等の権利侵害、およびこれらに係る放送倫理違反に関するものを原則とします。」とありますので、名誉を傷つけられた場合の申し立てを受け付けてくれることがわかります。ただし、まずは放送局に連絡してほしいと言われています。「苦情の申立てに対しては、まず放送局が真剣に受け止め、解決に当たります。」とあります。今回の件で言えば、現在はこの段階です。  これで解決しない場合については、BPOが申し立てを受け付けてくれます。「放送局との話合いでは問題が解決せず、放送人権委員会の審理を求めたい場合、電話・ファックス・郵便などの方法でその内容を放送人権委員会事務局に示していただきます。」とあります。申し立てがあった場合には、委員会が審理の対象とすべきかを決め、対象と決められた場合には審理がなされ、審理の結果が公表されることとなります。  BPOのサイトには、過去の相談事例が掲載されています。今回の件に関係しそうなものとしては、以下の事例があります。 2003年度仲介・斡旋解決事案  ・「話の内容をねじ曲げられた」との苦情 2007年度仲介・斡旋解決事案 ・「ラジオ番組で誹謗中傷された」との元局アナからの苦情 2009年度仲介・斡旋解決事案 ・「インタビューの編集により誤解を招いた」との訴え  研究者のコメントの扱いについては、特に事例はないようです。  また、同じBPO放送倫理検証委員会が出した「TBS『みのもんたの朝ズバッ!』不二家関連の2番組に関する見解」では、「根拠の薄い断定・断罪コメント」「放送前の打ち合わせの不十分さ」が指摘されています。今回の「スッキリ!!」の件とも通じる内容です。  今回の「スッキリ!!」の件については、日本テレビが放送基準をどのように考えており、勝谷氏の発言をどのように評価しているのかをしっかりと確認したいと考えます。BPOへの申し立ても含め、対応を進めていきたいと思います。