藤川大祐 授業づくりと教育研究のページ

藤川大祐のブログです。千葉大学教育学部教授(教育方法学、授業実践開発)。プロフィールは「このブログについて」をご覧ください。

袖ヶ浦高校情報コミュニケーション科訪問で考えた、10年後の普通の教育

 本日9月30日(金)、千葉県立袖ヶ浦高等学校を学生たちと訪問し、2011年度新設された情報コミュニケーション科(定員40名)の授業を見せていただいたり先生方のお話をうかがったりしまsた。公開研究会の形がとられたため、遠隔地からの参加者も含め、30名前後の方々が参加されました。記憶が新しいうちに、感じたこと、考えたこと等も含めて記しておきます。  袖ヶ浦高校情報コミュニケーション科では、全生徒にiPad2を持たせています。これは学校が貸与するのでなく、各家庭で購入するものです。入学前から受験生に「iPadを購入してもらう」ことを知らせてあり、購入について家庭からの苦情は出ていないとのこと。Wi-Fiのみと3Gつきのどちらでもよく、容量も自由に決めてよいということでしたが、学校で共同購入のような形で購入させたようです。アップル・ジャパンと綿密な打合せの上で取り組まれたようです。ちなみに、3G付きにした生徒は40名中1名のみで、残り39名はWi-Fiのみ。学校内の生徒が使う教室等は基本的にWi-Fiが使える環境なので、学校で使うには3Gである必要はありません。学校のWi-Fiには当然フィルタリングがかかっており、有害コンテンツへのアクセスはできません。  日常のiPad使用ルールは、当初に生徒たちに話し合わせて決めたそうです。授業中に関係のないことはしない、学校で充電はしない等。注目されている学校の生徒であることを自覚し、誇りをもって自分たちで考えさせる指導をされたわけで、なるほどと思います。  どの授業でも、iPadは自由に使ってよいことになっています。ネットで調べたり、pdf化した資料を読んだりといったことは日常行われています。何かを写真やビデオで残すといったこともあります。また、授業の感想はクローズドにしたTwitterアカウントで共有されています。教師も生徒も短時間で全員の感想を読めるというのは、非常に大きな意義あることと言えます。  この情報コミュニケーション科が目指すのは、情報技術を専門的に学ばせることでなく、10年後の普通科がしているであろうことなのだそうです。カメラもマイクもスピーカーも内蔵され、ネット接続可能でさまざまなアプリが使える情報端末を全員が日常的に使い、他の人とも未来の自分とも情報を共有し、見えづらいものを見えやすくする。こうしたことが、iPadのような汎用的な端末で、特別なソフトを使わずにできるということです。  もしかしたら、わが研究室の状況はこれにかなり近いのかなと感じました。私も学生たちも、特別な情報技術はなくとも、ノート型PC、スマートフォンiPad等の機器を日常的に使っていて、授業でも打合せでも当たり前のように使います。自分たちの経験や考えを頻繁に交流し、過去の財産がネットで蓄積されている。撮影、録音は当然。遠隔地とSkype等で会議も行う。外部の方々との交流も多く、ネットも対面も組み合わせて、ゆるやかなつながりを広げている。わが研究室では時間をかけてこのような状況になってきたわけですが、袖ヶ浦高校ではiPadを全員にもたせることで一気に「10年後」水準の環境がつくられたことになります。  本日授業を見させていただき、生徒たちが作業に熱心に取り組んでいることや、自分の言葉でプレゼンをしていることが印象的でした。もともと資質のあった人が入学したということもあるのかもしれませんが、日頃から互いの考えや成果を共有する機会が多く、少人数の世界に閉じこもっていないことが重要なのではないかと感じました。自分の思いは必ず聴いてもらえる、自分も他の人の話を聞く、といったことに対する信頼が築かれており、「サボってやろう」とか「プレゼンを失敗しないように原稿を書いておこう」などと考えることがなくなっているように思います。  袖ヶ浦高校情報コミュニケーション科の実践は、今後のデジタル教科書等をめぐる議論の中で、必ず注目されることと思います。今後の展開が非常に楽しみです。 Kenbikyo ↑顕微鏡にiPadのカメラを置き、花粉の写真を撮影。  Keynote ↑撮影した顕微鏡写真をKeynoteですぐにプレゼン資料に。 Presen ↑少人数のプレゼンでiPadが活躍。