藤川大祐 授業づくりと教育研究のページ

藤川大祐のブログです。千葉大学教育学部教授(教育方法学、授業実践開発)。プロフィールは「このブログについて」をご覧ください。

大津市の「いじめ自殺事件」に関する現時点での見解

 昨年10月11日に大津市の中学生が自殺した事件について、今月に入りさまざまな報道がなされています。この「いじめ自殺事件」に関しては本日の大学の授業「学校と教育」でも一部予定を変更してお話ししましたので、現時点での私の見解をここに記しておきます。

1)被害者が亡くなる以前に、いじめについて多くの生徒が知っていた上に担任も知っていたという状況があり、しかも被害者が担任に相談していたという報道もある。このような中で担任が問題解決のためにほとんど動いていないように見えるが、そうだとしたら異常に思われる。学校あるいは地域において、被害生徒に対する差別的な感情が広がっていて、多くの関係者が「あの生徒はいじめられてよい」と考えていたとしか思えない。何らかの要因があってそもそもひどい差別がなされていたのではないか。

2)被害者が亡くなる前にも亡くなった後も、被害者や親族から警察に相談があったにもかかわらず、警察は被害届を受理せず捜査をしていないと報じられている。これが事実だとすると、警察の対応に強い違和感を覚える。明らかに犯罪と言えることが多く報じられており、警察が刑事事件として動いて当然の事案であろう。実際に本日になって市教委や学校を捜索しているとのことだが、これほど騒がれないと動かない背景には、何か事情があるのではないか。

3)被害生徒の死亡が本当に自殺なのかどうかについても検証が不十分であるように思われる。自殺の練習を繰り返しさせていたという報道もふまえれば、加害生徒たちが自殺を強要した等の可能性は十分に考えられる。警察がどこまでの根拠をもって自殺と判断したのかがわからない。

4)ネットで加害生徒やその家族、あるいは当時の担任教師の個人情報・プライバシーがかなり書かれているようであり、しかも一部では誤った情報が掲載され無関係の人がやり玉に挙げられることもあったようである。ネットにおける過剰な社会的制裁は許されない。なお、市教委や学校が隠蔽ばかりして問題の解決に向かっていないように感じられることが、ネットでの過剰な社会的制裁につながっているとも考えられ、隠蔽をせずに丁寧に情報開示をする必要があったことがわかる。

5)いじめが背景にある自殺が起こっている状況で、学校が残された生徒たちにどのようなケアをしたのかが不明であり、「口止め」が行われていたことをふまえれば、学校が生徒たちのストレスを増大させてしまった可能性が危惧される。本来こうした事件が起こった後は、外部の専門家等の力を借りて関係者のケアを徹底して行うべきだ。

 報道されている範囲から判断するしかないが、今回の学校、市教委、警察などの一連の動きが、かなり異常に感じられる。報じられないことの中に、重要な事実が隠れてしまっているのかもしれない。

(追記)2012年7月12日16:02、誤字を修正しました。