藤川大祐 授業づくりと教育研究のページ

藤川大祐のブログです。千葉大学教育学部教授(教育方法学、授業実践開発)。プロフィールは「このブログについて」をご覧ください。

「いじめ防止基本方針」について

 「いじめ防止対策推進法」が、6月28日に交付、9月28日にされました。この法によって、文部科学省が「いじめ防止基本方針」を定めることとなっており、今年8月より文部科学省に設けられた「いじめ防止基本方針策定協議会」において私は委員をつとめています。これまでほぼ毎週会議が開かれ、基本方針についての議論を重ねてきました。10月11日(金)の会議にて方針案がまとめられ、発表される見通しです。協議会のこれまでの審議については http://www.kyoi-ren.gr.jp/ で(なぜか)公開されていますので、ご参照ください。

 この方針のあり方について、現時点で思うところを書いておきます。

1.いじめ防止対策推進法では、各学校にいじめ防止対策の方針を定め、いじめ防止やいじめが生じた場合の対応を行う組織を設けることを義務づけています。各学校の方針が公開され、PDCAサイクルをまわしつついじめ防止対策が進められることを期待しています。

2.いじめ防止対策推進法ができたことで、学校現場の教師たちが新たな負担と感じるようではまずいです。そもそも、教師の多忙さをそのままにしていじめへの対応を改善することは困難です。教師の多忙さの解消は、いじめ防止対策を進めるための前提となるべきです。

3.各学校や地域で、いじめ発生やいじめの深刻化の可能性を高めるリスク要因(たとえば、学級崩壊、担任教師の孤立、不適切な学校広報等)を挙げ、そうした要因を小さくしていく方向でのいじめ防止対策が期待されます。

4.いじめ問題への対応において、いじめかどうかを判断した上で対処することが求められがちですが、実際にはいじめか否かが判然としない状況が多いと考えられます。たとえいじめでなくても、他の児童生徒に失礼なことを言う、からかう、叩くといったことについては注意を促していく必要があります。いじめかどうかの判断に頼らず、いじめにつながりうる子どもたちの言動に注意を払うことが必要です。

5.いじめ問題を正面から取り上げた授業がなされることに、期待しています。特に、「いじめられる側にも問題がある」「チクることは卑怯なこと」「悪いことをしている人には悪口を言ってよい」といった不適切な考え方が子どもたちから出され、話し合うことによって修正されていくことが重要です。子どもが教師や他の大人といじめ問題について話し合う場の設定や、話し合いに活かされる教材の活用が必要です。こうした授業を基盤に、児童生徒がいじめ防止対策に参画できる体制を作ることが求められます。

6.いじめ防止対策には、学校にさまざまな大人が関わり、子どもが大人たちから認められ、何かがあれば相談できる状況が必要です。また、少数派であることを理由に人が差別されるような状況はあってはなりません。考え方や経験が異なる人たちが互いを認めあえるような学校づくりが、いじめ防止対策の面からも目指されるべきです。

7.国は、方針を作って終わりではありません。国にいじめ防止対策の協議会を設置し、地方や学校の取り組みをモニターしつつ、国の方針を見直していくことが必要です。今回短期間で定められることになる国の方針は、絶対的なものと考えられてはなりません。いじめ防止対策は、国と地域・学校との間のキャッチボールとして進められるべきものであり、今回の方針策定は、国から地域・学校にボールが投げられたことを意味するはずです。国は今後、地域や学校から投げられたボールを丁寧に受け取り、次のボールを投げる準備をしていくことになります。

 いじめ防止基本方針策定協議会は、10月11日(金)の会議をもって最終回となり、会議が終われば国の方針が公表されるはずです。私はこの協議会の委員として、上記のような考えをもって議論に参加してきました。これまでのいじめ防止対策で不十分だった点について抜本的な改善をはかるために、必要な材料を方針(及び付属資料)に入れることができるよう、最後まで議論をしていきたいと考えています。