藤川大祐 授業づくりと教育研究のページ

藤川大祐のブログです。千葉大学教育学部教授(教育方法学、授業実践開発)。プロフィールは「このブログについて」をご覧ください。

「アンダーライブ」の逆説的な可能性

乃木坂46というグループは40名前後のメンバーがいて、うち20名程度が「選抜メンバー」、残りが「アンダーメンバー」となっています(入ったばかりのメンバーはどちらにも入らなかったりします)。以下、敬称略で。

 

2012年のデビューからしばらく、アンダーメンバーはあまり出番がありませんでした。2014年にアンダーライブが始まってから徐々に状況が変わってきます。最初は「全国握手会」というイベントの後に行われたアンダーメンバーだけのライブ「アンダーライブ」はあまりお客さんも入らず、それでも、当時アンダーだった星野みなみは、「目指せ!武道館」と言っていました。

 

2014年10月、今はなき六本木ブルーシアターで全18公演行われた「セカンドシーズン」から、状況が変わります。このときのアンダー楽曲「あの日僕は咄嗟に嘘をついた」でセンターを務めた井上小百合が膝を負傷してサポーターをしながらの熱演で、前作でセンターを務めた伊藤万理華や後に選抜センターを何度も務めることになる齋藤飛鳥らとともに熱いステージを務めました。

 

その後、アンダーライブは大きい会場でも行われるようになり、2015年12月には星野みなみの発言どおり、日本武道館での開催となります。そして、名古屋、東北シリーズ、中国シリーズの公演を経て、2016年12月の日本武道館での公演ではセンター寺田蘭世が「1+1が2なんて誰が決めたんだ、って話なんですよ(略)人生はそういうもので計ってほしくないんです! だから私は、1+1は、100にしたいと思います!」という炎のスピーチをするなど、熱いライブが続きました。

 

そして、今年3月25日〜27日の3日間、横浜のぴあアリーナMMで行われたアンダーライブ。いつの間にか、1期生は和田まあや、2期生は山崎怜奈とそれぞれ1名のみになり、センターの3期生佐藤楓をはじめ、3期生・4期生中心のメンバーでのライブとなりました。

 

乃木坂46は5期生が入ったものの、新曲センターを務める中西アルノを含めた2名が活動中止中で、ファンの反発も影響したのかCD売り上げも落ち込んでいます。そうした中、選抜メンバーは固定気味で、アンダーメンバにはなかなか光が見えない状況だったのではないかと思われます。しかし、以下の記事にあるように、今回のアンダーライブは大変盛り上がりました。

 

www.oricon.co.jp

 

このライブの盛り上がりには、いくつかの要因があったと思います。

 

第一に、1期生・2期生が目に見えて少なくなって、3期生・4期生が自分たちで頑張らなければならないと思える状況になったこと。第二に、4期生は前回のアンダーライブが初参加で、今回は2回目となりもう初参加ではなくなっていたこと。第三に、アンダーのセンターが佐藤楓、その両脇が金川沙耶と弓木奈央と、個別には活躍していたものの、乃木坂46では全面に出ることが少なかったメンバーで、彼女たちの力がよい形で発揮されたこと。…というように、いろいろなポイントを挙げることができたと思います。

 

ライブの演出も素晴らしいものでした。セットは特になくセンターステージ等もないシンプルな舞台構成でありながら、照明を効果的に使い、メンバーのパフォーマンスが映えるようになっていたこと。16名のメンバーそれぞれの物語を尊重した演出がなされていたこと。一人ひとりの歌声がしっかり届いていたこと。4期生がテレビ番組「乃木坂スター誕生!」で昭和・平成のヒット曲を歌ってきたことで歌唱力が鍛えられた成果も感じられました。また、コロナ禍でのライブでは配布されることの多かったスティックバルーンが配布されず、ペンライトや拍手のみで観客が応援する状況となり、ペンライトの色や動きの統一感や拍手で盛り上げることになったのも、よかったと思います。

 

それにしても、ここまで熱いアンダーライブは何年かぶりではなかったでしょうか。逆説的ですが、乃木坂46全体もアンダーメンバーたちも今非常に厳しい状況にあるからこそ、迫力あるライブができて、観客に伝わり、相乗効果が生じたのではないかと思います。最終日のアンコールで、和田まあやが自分が責任を取るからと言ってアカペラで予定外の歌唱を披露したことが、相乗効果の結果だったと思います。

 

乃木坂46はもう終わったと思われても仕方がない状況にあるのかもしれません。でも、そうした厳しい状況でこのように熱いライブができてしまうところが、面白いところだろうと思います。和田まあやが言った、アンダーライブを東京ドームでという話が、決して夢ではないと思えます。

 

そもそも乃木坂46は、絶頂にあったAKB48の「公式ライバル」という無茶な状況から始まったグループです。厳しい状況でこそその真骨頂を発揮してくれるところが、このグループの面白いところではないでしょうか。ピンチだから輝けるというのは、とても素晴らしいことだと思います。