藤川大祐 授業づくりと教育研究のページ

藤川大祐のブログです。千葉大学教育学部教授(教育方法学、授業実践開発)。プロフィールは「このブログについて」をご覧ください。

広島遺体遺棄事件についてのコメント

 広島県呉市で16歳の少女が遺体で発見され、遺体遺棄の容疑で6名が逮捕されています。この事件に関して、容疑者の少女と被害者との間でLINEでの書き込みに関するトラブルがあったり、事件後にLINEでのやりとりがなされたりしており、一部報道で青少年のネット利用の問題であるという取り上げられ方がなされつつあります。私のところにも、いくつか取材が来ています。

 しかし、この件をネット利用の問題として扱うことは大きな誤解につながると考えられます。現時点での私のコメントを以下に掲載しておきます。

1)「LINEへの書き込み」という言い方がありますが、LINEは基本的にメールの代替手段となっており、個人間もしくは限られたメンバーでのグループでのやりとりがなされいるのであって、サイトへの書き込みとはかなり様子が違うものです。「LINEで悪口が書かれた」は「メールで悪口が書かれた」と同様、「LINEで、逮捕されるというメッセージが送られた」は「メールで、逮捕されるというメッセージが送られた」と解するべきです。

2)容疑者たちがLINEで知り合ったという理解をしている記者の方もおられるようですが、LINEは電話番号の交換なりLINE IDの交換なりを行わなければつながらないものであって、LINEで知り合うということは考えにくいです。LINEを不特定多数の人が知り合う手段のようにとらえるのは誤解です。LINEでのやりとりが可能になっているとすれば、LINE以外の何かで知り合っているはずです。

3)報道によれば、今回の被害者や容疑者たちは、学校に通っておらず、アンダーグラウンドの仕事に関わっていたことが示唆されています。そうした状況にある若者の間にもめごとが生じて殺人にまで至ることは、残念ながらネット普及以前にもありました。他方、ネットが普及して以降、若者のネットでのもめごとが殺人や死体遺棄事件に至ったケースは非常にまれです(可能性があるのは佐世保小学生女児殺人事件くらいではないでしょうか)。ネットいじめから自殺に至るケース、傷害事件、ネットで仲間を募っての犯罪などはそれなりの数が報道されていますが、今回のような殺人や死体遺棄の事件にまで至ることはほとんどありません。ネットでの悪口はあったのかもしれませんが、悪口だけでは殺人にはつながらないはずです。被害者や容疑者たちの生活環境こそが殺人・死体遺棄につながるリスクであるととらえるべきでしょう。

4)ネットに関して課題を考えるのであれば、スマートフォンの急速な普及によって子どもたちのモバイルでのネット利用が飛躍的に広がっていること、そうした中でネット利用に関わるトラブルが発生したり拡大しやすくなっていたりすることが一般的には考えられる、ということは言えるかもしれません。ただし、今回の事件の背景にこうしたネットに関する課題が関わっているということは、現時点では言えないように思います。