藤川大祐 授業づくりと教育研究のページ

藤川大祐のブログです。千葉大学教育学部教授(教育方法学、授業実践開発)。プロフィールは「このブログについて」をご覧ください。

主権者教育は、投票率向上目的であってはならない

このほど、藤川大祐編「多様化時代における主権者教育に関する研究」 (人文公共学府研究プロジェクト報告書第372集)が完成し、インターネットで公開となりました。

 

ace-npo.org

 

私たちの研究室では毎年3月に研究室紀要『授業実践開発研究』を発行していますが、2010年度からはこれに加え、プロジェクト研究報告書という冊子も発行しています。このプロジェクト研究報告書は、私が博士後期課程を担当している千葉大学大学院人文公共学府で出されているものであり、毎年博士後期課程の学生が中心となって企画し、人文公共学府でプロジェクトを認めてもらって発行しているものです。

 

プロジェクト研究報告書には毎回テーマがあります。今回は初めて、主権者教育をテーマにしました。研究室に所属する学生たちの中で主権者教育についての関心が高まっており、今年度は、千葉大学教育学部附属中学校の総合的な学習の時間のゼミで学生たちが担当者となって関連する授業を「アドボカシーゼミ」として行うなどの取り組みをしてきました。私の研究室の学生が附属中学校の授業の一部を担当させてもらうのは2010年度からやっていることで、当然ですが私が校長になるよりはるか前からです。

 

私個人としても、主権者教育については一度しっかりと取り組んでみたいと考えていました。私は1990年台からディベート教育に関わってきており、中高生などの主権者としての資質を育てるためにディベートは重要だということはいつも考えてきたのですが、では主権者を育てる教育はどうあるべきかという問題については正面から取り組む機会を作れていませんでした。今回は私個人としてもある程度力を入れて、報告書の巻頭論文として、主権者教育論を書かせてもらいました。

 

私の論文はぜひお読みいただきたいのですが、ここで1点だけ述べると、主権者教育は、投票率向上目的になされるべきものではないだろう、ということがあります。主権者教育が語られる際には、必ずといってよいほど、若年層の投票率が低いこともセットで語られます。そして、あたかも若年層の投票率を上げることが、主権者教育の目的のようにされます。その結果なされる教育は、民主主義は大切で、だから投票も大切で、みなさん投票に行きましょうという意図が見え隠れするものになる場合が多いように思われます。

 

でも、主権者たるもの、自分で判断できるようでなければならないはずで、投票することを疑わせず投票を促すというのは、本来の主権者教育とは逆方向の営みになってしまうのではないでしょうか。むしろ、主権者教育は投票率向上を目的とはしないとはっきり言い切った方が、主権者教育のあるべき姿がはっきりするのだろうと思います。論文中で詳しく述べていますが、投票率向上のためには、スマホでの投票を可能にするなど、投票コストを下げることをもっと真剣に検討すべきです。

 

では、私が考える主権者教育とはどのようなものか。キーワードは、「エージェント指向学習」です。詳しくは報告書をお読みいただければ幸いです。