藤川大祐 授業づくりと教育研究のページ

藤川大祐のブログです。千葉大学教育学部教授(教育方法学、授業実践開発)。プロフィールは「このブログについて」をご覧ください。

オタク力と越境学習を結びつけてみる

「オタク力」に関する論文を掲載したばかりですが、本日先ほどまで、「オタク力」研究チームのオンライン・ミーティングがありました。だいたい月に1回、チームでのミーティングを行っています。

 

今日のミーティングで見舘好隆先生から教えていただいた石山恒貴・伊達洋駆『越境学習入門』の話を「オタク力」と結びつけて考えることが、面白いと思っています。

 

先日の日本教育工学会で「オタク力」関連の発表したときにも議論になったのですが、個人として何かが好きで「オタク」でいる状態と、「オタク」として他者と関わっている状態とでは、「オタク」であることによって得られる能力は違うと考えられます。「オタク」として他者と関わることで、「オタク」であることがアイデンティティにつながり、好きなことについて思い切り表現してみたり、自らとは違う見方に出会って「オタク」としての未熟さを自覚したりするということがあるのではないでしょうか。

 

『越境学習入門』には、「越境学習者は二度死ぬ」という話があります。「越境」中にも葛藤状態になるだけでなく、「越境」から戻った後にも元の場所が以前とは違って見えて葛藤するというのです。

 

「オタク」として他者と関わるというのは、この意味で「越境」するということなのかなと思います。「オタク」であることを通して新たな場所で新たな人たちと出会った後、「オタク」であることを出さずに過ごしていた元の場所との関係は変わり、元の場所でどうするか葛藤することになりえます。そうした葛藤の経験で、自分と社会との折り合いをどのようにつけていくのかが見え、自分なりのやり方で社会に貢献する道を見つけることができるということなのかもしれません。

 

授業づくりの研究者としては、たとえば中学校の数学の授業でオタク的越境みたいなことが起きるような仕掛けをして、生徒が数学の授業に没入するような状況を作れたら面白いのだろうと考えたりします。