藤川大祐 授業づくりと教育研究のページ

藤川大祐のブログです。千葉大学教育学部教授(教育方法学、授業実践開発)。プロフィールは「このブログについて」をご覧ください。

「教師不足」の解決には、「特別免許状の積極活用」でなく、正規採用教員を2001年度並みに戻すことが必要だ

ようやく「教師不足」が広く認知されるようになり、末松文科相が国会で、特別免許状の積極活用を進めることを表明し、「あらゆる手段を講じて教師の確保に取り組んでいただきたい」と話しました。

 

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特別免許状を乱発しても、教員免許をとっていない人にいきなり学級担任を任せることはできませんし、そもそも特段待遇がよくない教職に就きたい人が多いとも考えにくいので、特別免許状の積極活用だけで教師不足への十分な対応になるとは考えられません。しかし、文部科学省が本気を出して具体的な対応を進めれば、教師不足への対応は可能だと考えられます。

 

まず確認しておかなければならないのは、今問題になっている「教師不足」は、臨時的任用教員すなわち非正規雇用の教員が少ないということです。正規教員を採用する教員採用試験は競争率が下がったとは言え低くても2倍以上がほとんどなので、正規教員の希望者が少なすぎて埋まらないというほどではありません。正規教員を補う非正規雇用の教員が見つからないケースが多いことが問題になっているわけです。

 

文部科学省ではこのようになってしまった要因を適切に分析できていないように思われます。私は、2001〜2011年の10年間で小中学校の臨時的任用教員への依存率が急激に上がり、その後も臨時的任用教員への依存率が高止まりしていることが今問題になっている「教師不足」の主たる要因であることを示しました。

 

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念のため、上記記事に載せた表も転載しておきます。

 

 

現状の「教師不足」というのは、そもそも臨時的任用教員になりたい人があまり多いはずはないのに、正規の教員を減らして臨時的任用教員の数を増やそうとしたために、臨時的任用教員になってくれる人がなかなか見つからないということです。

 

このように考えれば、解決が可能なことがわかるはずです。今すぐ、正規雇用の教員の数を増やし、臨時的任用教員の割合を2001年程度まで抑えるのです。具体的には、文部科学省が必要な予算を確保して以下のことを行えばよいでしょう。

 

  • 教育委員会に対して、「教師不足」となっている分の教員を年度途中の正規採用で確保することを指示し、そのために必要な予算をつける。各教育委員会は、現在不足している数+今後不足が予想される数の教員募集を今すぐ行い、5月にでも6月にでも採用する。
  • 教育委員会に対して、令和5年度以降早急に正規教員の比率を2001年ごろの水準まで戻すことを指示し、人件費増加分の一定割合を国庫負担する。この際、現在臨時的任用教員である人については、校長の推薦等があれば試験を免除して採用を決定する等、臨時的任用教員が円滑に正規教員に移行できるようにする。
  • 上記の策を円滑に進めるため、今すぐに、更新講習を受けなかったために教員免許が使えなくなっている人について、無条件で免許を復活させる。

 

これだけで、現在の「教師不足」の問題はほぼ解消できるものと思われます。教員の定数自体を増やすわけではないので、必要な予算はそれほど大きなものではありません。

 

なお、上記の策でも十分な教員を集めることができないとすると、教員の仕事に比して待遇が悪く、教員のなり手が足りないということを意味するはずです。そうなったら、かなりの予算をかけて、業務改善、待遇改善をするしかないでしょう。

 

学校現場は今、「教師不足」で困っています。文部科学省としてはこれまで何も有効な策をとってこなかった責任をよく認識し、特別免許状の積極活用などという実効性のない策ではなく、ここで述べたような抜本的な対策を今すぐにとってほしいと思います。