藤川大祐 授業づくりと教育研究のページ

藤川大祐のブログです。千葉大学教育学部教授(教育方法学、授業実践開発)。プロフィールは「このブログについて」をご覧ください。

「民主主義の理想」を私たちはどう考えればよいのか?

昨日、第148回千葉授業づくり研究会にて、朝日新聞論説委員の沢村亙さんのお話を聞き、ウクライナ危機をはじめとする緊迫した国際情勢に子どもたちとともにどのように向き合うか、議論しました。

 

ace-npo.org

 

沢村さんは、ニューヨーク、ワシントン、ロンドン、パリ、中国等での勤務経験があり、現在は朝日新聞論説委員として活躍されています。ちょうど今朝の朝日新聞「日曜に想う」欄でも記事を書かれています。

 

digital.asahi.com

 

昨日は、沢村さんが今の国際情勢をどのように見ておられるかを分かりやすく話してくださり、いくつも印象に残ることがありました。たとえば、次のことがありました。(以下、すべて藤川の責任でまとめています。)

 

  • ヨーロッパの統合は必要あってのことだが、EUができて国民国家の役割は相対的に小さくなり、そのために民族等が独立を望みやすい状況が生じた。言わば、欧州統合がパンドラの箱を開け、地域紛争・民族紛争につながっている。
  • 為政者が、過去の歴史の中で自分たちの国や民族が傷つけられた歴史を持ち出すことがある。
  • 報道の自由が西側の価値観だと思われてしまい、ジャーナリストは「中立の証人」でなく「攻撃対象」となってしまい、多くのジャーナリストが犠牲になっている。

 

また、子どもたちとともに戦争を考えるヒントになるような情報として、次のような情報を教えていただきました。

 

www.youtube.com

www.savechildren.or.jp

www.unicef.or.jp

www.bbc.com

 

教育基本法を持ち出すまでもなく、私たちは子どもたちが民主的な社会の担い手となることを目指して教育を行おうとしているはずです。言わば、「民主主義の理想」があることが、教育を行う前提になっているわけです。しかし、ミャンマーアフガニスタンで民主的な政権が倒れ、ロシアでは独裁的な権力をもったプーチンが戦争を仕掛けています。民主主義を推進しているはずの欧米でも、分断が深刻です。世界が「民主主義の理想」に向かうはずだという期待は、もはや夢物語になってしまったようです。

 

日本においては、まだ「民主主義の理想」は消えていないと考えたくなるかもしれません。もちろん、日本では制度としての民主政治は定着しており、選挙違反がある程度摘発されるくらいには、まともな民主政治が機能していると言えるでしょう。しかし、「空気を読む」ことが求められ、我慢は美徳とされ、政治的課題を多くの人が我が事と考えにくい状況は生じており、経済格差の拡大は止まらず、女性の社会参画レベルは低いままであり、選択的夫婦別姓制度すら成立しない等、民主主義が成熟しているとは言えない状況にあります。学校においても、教員の過剰労働が放置され、いわゆるブラック校則で児童生徒の自由は過剰に制限され、児童生徒会活動のような自治的活動は活発とは言えません。

 

民主主義であれ権威主義であれ、権力者の暴走や少数者の抑圧の問題が生じうることは間違いなく、国や地域の事情に合わせ、暴走や抑圧を防ぐ仕組みが機能するよう調整していくしかないものと思われます。民主主義になればそれで十分とも言えず、世界が民主主義に向かうという予想も成立しないことを踏まえると、民主主義は理想でなく、好ましい政治のあり方の一条件くらいのものとして考えられるべきなのかもしれません。少なくとも、「自分たちのことは自分たちで決める」という意味での民主主義だけを絶対視するのでなく、偶発的に多様な価値観に出会い、多様性を尊重し、異なる価値観の者どうしの共生のために試行錯誤するという姿勢は重要と思われます。

 

このようなことを考えつつ、学校の授業や児童生徒会活動等が、偶発的に出会った者どうしが、互いの価値観を尊重しながら共生を図る試行錯誤の機会として機能できるようにすることを、具体的に考えていかなければと思います。