藤川大祐 授業づくりと教育研究のページ

藤川大祐のブログです。千葉大学教育学部教授(教育方法学、授業実践開発)。プロフィールは「このブログについて」をご覧ください。

「オタク力」から見る、汎用的能力ばかりを追うキャリア教育への疑問

昨日3月31日、千葉大学教育学部授業実践開発研究室(藤川研究室)の研究紀要『授業実践開発研究』第15巻が完成し、インターネット上で公開となりました。千葉大学附属図書館のリポジトリへの掲載や冊子の印刷は少し先となりますが、現在は研究室論文集サイトに全論文が掲載されています。ぜひお読みください。

 

ace-npo.org

 

私は、「オタク力」研究グループの方々と連名で、「キャリア関連能力と『オタク力』との関係」という論文を執筆しました。

 

https://ace-npo.org/fujikawa-lab/file/pdf/bulletin/2022/fujikawa.pdf

 

この論文は、先日の日本教育工学会全国大会で発表した内容を論文化したものです。

 

現在進められているキャリア教育では、「基礎的・汎用的能力」が強調されています。しかし、このように誰でも共通に身につけられる力をつけさせることがキャリア教育だとすると、自分が好きなことを大切にし、たまたま出会ったものとの関係を大切にするようなキャリア形成が否定されかねません。言い換えれば、「オタク力」を大切にする立場からは、「基礎的・汎用的能力」の強調は危険だということです。

 

また、「キャラクター・ストレングス」、「ライフキャリア・レジリエンス」、「透過性調整力」、「進路選択自己効力感」といったキャリア関連能力と「オタク力」の関係についても検討しました。

 

「オタク力」については、千葉大学教育学部研究紀要に「『オタク』の意味論的検討」という論文を発表したばかりでもあります。あわせてお読みいただければ幸いです。

オタク力と越境学習を結びつけてみる

「オタク力」に関する論文を掲載したばかりですが、本日先ほどまで、「オタク力」研究チームのオンライン・ミーティングがありました。だいたい月に1回、チームでのミーティングを行っています。

 

今日のミーティングで見舘好隆先生から教えていただいた石山恒貴・伊達洋駆『越境学習入門』の話を「オタク力」と結びつけて考えることが、面白いと思っています。

 

先日の日本教育工学会で「オタク力」関連の発表したときにも議論になったのですが、個人として何かが好きで「オタク」でいる状態と、「オタク」として他者と関わっている状態とでは、「オタク」であることによって得られる能力は違うと考えられます。「オタク」として他者と関わることで、「オタク」であることがアイデンティティにつながり、好きなことについて思い切り表現してみたり、自らとは違う見方に出会って「オタク」としての未熟さを自覚したりするということがあるのではないでしょうか。

 

『越境学習入門』には、「越境学習者は二度死ぬ」という話があります。「越境」中にも葛藤状態になるだけでなく、「越境」から戻った後にも元の場所が以前とは違って見えて葛藤するというのです。

 

「オタク」として他者と関わるというのは、この意味で「越境」するということなのかなと思います。「オタク」であることを通して新たな場所で新たな人たちと出会った後、「オタク」であることを出さずに過ごしていた元の場所との関係は変わり、元の場所でどうするか葛藤することになりえます。そうした葛藤の経験で、自分と社会との折り合いをどのようにつけていくのかが見え、自分なりのやり方で社会に貢献する道を見つけることができるということなのかもしれません。

 

授業づくりの研究者としては、たとえば中学校の数学の授業でオタク的越境みたいなことが起きるような仕掛けをして、生徒が数学の授業に没入するような状況を作れたら面白いのだろうと考えたりします。

「ウクライナ危機 児童生徒と対話する際の8つのポイント」を書きました

先日、教育新聞の連載で、「ウクライナ危機 児童生徒と対話する際の8つのポイント」という文章を書かせていただきました。

 

www.kyobun.co.jp

 

ウクライナへのロシアによる侵攻について、日本にいて教育で何ができるかというと大変心許ないのですが、児童生徒はこの問題に大いに関心をもっていると思います。また、ウクライナの人々の状況を我が事のように捉えて、不安や恐怖を抱えている場合もあると思います。現在進行中の問題について、学校の授業で取り上げるというのはなかなかハードルが高いと思われますが、朝の会等のちょっとした時間に話題にすることはできるだろうと思い、私なりに調べたり考えたりした上で、ヒントになりそうなことを書かせていただきました。

 

「8つのポイント」というのは、以下の8項目です。

 

  • 不安・恐怖について
  • 安全や平和の大切さ
  • 基本的な地理・歴史
  • 産業・エネルギー
  • 国際組織・国際法
  • 民族
  • 自由と民主主義
  • 戦時プロパガンダ

 

学年段階によって話す内容は違ってくると思うのですが、たとえば、ウクライナから日本への輸入品で圧倒的に多いのはタバコなんだというような話題であれば、比較的幼い子どもも、なんでだろうと思うかもしれません。

 

具体的には、記事をお読みいただければ幸いです。春休み明けの話題に使っていただけたらと思っています。

 

ウクライナ危機に関しては、これからも私なりに関心を持って考えていきたいと思っています。

 

論文「『オタク』概念の意味論的検討」を暫定公開します

このほど冊子ができた千葉大学教育学部研究紀要第70巻に、藤川大祐・渡邉文枝・見舘好隆・小野憲史「『オタク』概念の意味論的検討」が掲載されました。

 


いずれ千葉大学図書館のリポジトリに掲載されるはずなのですが、まだ掲載されいていないようですので、紙バージョンをスキャンしたものをここで公開させていただきます。お読みいただければ幸いです。

 

「オタク」概念の意味論的検討

 

この論文は、私たち研究グループで進めている「オタク力」に関する研究の一環として執筆したものです。「オタク」がもつ力を活かそうとするためには、「オタク」という語の独特の意味合いを踏まえておく必要があると考え、もともとは相手の家を敬って示す語であった「オタク」が、換喩や「待遇性の水準低下」といった変化を経て、自嘲語となっていった経緯をたどり、自嘲語ゆえに「オタク」を自称する人にこの語が力を与えうることを論じました。こうした議論が、「オタク」を自認することが本人や周囲の人へのエンパワーメントにつながるヒントを与えてくれるものと考えています。

 

私たちなりの問題提起ですので、ご意見等いただけたらうれしいです。

 

「アンダーライブ」の逆説的な可能性

乃木坂46というグループは40名前後のメンバーがいて、うち20名程度が「選抜メンバー」、残りが「アンダーメンバー」となっています(入ったばかりのメンバーはどちらにも入らなかったりします)。以下、敬称略で。

 

2012年のデビューからしばらく、アンダーメンバーはあまり出番がありませんでした。2014年にアンダーライブが始まってから徐々に状況が変わってきます。最初は「全国握手会」というイベントの後に行われたアンダーメンバーだけのライブ「アンダーライブ」はあまりお客さんも入らず、それでも、当時アンダーだった星野みなみは、「目指せ!武道館」と言っていました。

 

2014年10月、今はなき六本木ブルーシアターで全18公演行われた「セカンドシーズン」から、状況が変わります。このときのアンダー楽曲「あの日僕は咄嗟に嘘をついた」でセンターを務めた井上小百合が膝を負傷してサポーターをしながらの熱演で、前作でセンターを務めた伊藤万理華や後に選抜センターを何度も務めることになる齋藤飛鳥らとともに熱いステージを務めました。

 

その後、アンダーライブは大きい会場でも行われるようになり、2015年12月には星野みなみの発言どおり、日本武道館での開催となります。そして、名古屋、東北シリーズ、中国シリーズの公演を経て、2016年12月の日本武道館での公演ではセンター寺田蘭世が「1+1が2なんて誰が決めたんだ、って話なんですよ(略)人生はそういうもので計ってほしくないんです! だから私は、1+1は、100にしたいと思います!」という炎のスピーチをするなど、熱いライブが続きました。

 

そして、今年3月25日〜27日の3日間、横浜のぴあアリーナMMで行われたアンダーライブ。いつの間にか、1期生は和田まあや、2期生は山崎怜奈とそれぞれ1名のみになり、センターの3期生佐藤楓をはじめ、3期生・4期生中心のメンバーでのライブとなりました。

 

乃木坂46は5期生が入ったものの、新曲センターを務める中西アルノを含めた2名が活動中止中で、ファンの反発も影響したのかCD売り上げも落ち込んでいます。そうした中、選抜メンバーは固定気味で、アンダーメンバにはなかなか光が見えない状況だったのではないかと思われます。しかし、以下の記事にあるように、今回のアンダーライブは大変盛り上がりました。

 

www.oricon.co.jp

 

このライブの盛り上がりには、いくつかの要因があったと思います。

 

第一に、1期生・2期生が目に見えて少なくなって、3期生・4期生が自分たちで頑張らなければならないと思える状況になったこと。第二に、4期生は前回のアンダーライブが初参加で、今回は2回目となりもう初参加ではなくなっていたこと。第三に、アンダーのセンターが佐藤楓、その両脇が金川沙耶と弓木奈央と、個別には活躍していたものの、乃木坂46では全面に出ることが少なかったメンバーで、彼女たちの力がよい形で発揮されたこと。…というように、いろいろなポイントを挙げることができたと思います。

 

ライブの演出も素晴らしいものでした。セットは特になくセンターステージ等もないシンプルな舞台構成でありながら、照明を効果的に使い、メンバーのパフォーマンスが映えるようになっていたこと。16名のメンバーそれぞれの物語を尊重した演出がなされていたこと。一人ひとりの歌声がしっかり届いていたこと。4期生がテレビ番組「乃木坂スター誕生!」で昭和・平成のヒット曲を歌ってきたことで歌唱力が鍛えられた成果も感じられました。また、コロナ禍でのライブでは配布されることの多かったスティックバルーンが配布されず、ペンライトや拍手のみで観客が応援する状況となり、ペンライトの色や動きの統一感や拍手で盛り上げることになったのも、よかったと思います。

 

それにしても、ここまで熱いアンダーライブは何年かぶりではなかったでしょうか。逆説的ですが、乃木坂46全体もアンダーメンバーたちも今非常に厳しい状況にあるからこそ、迫力あるライブができて、観客に伝わり、相乗効果が生じたのではないかと思います。最終日のアンコールで、和田まあやが自分が責任を取るからと言ってアカペラで予定外の歌唱を披露したことが、相乗効果の結果だったと思います。

 

乃木坂46はもう終わったと思われても仕方がない状況にあるのかもしれません。でも、そうした厳しい状況でこのように熱いライブができてしまうところが、面白いところだろうと思います。和田まあやが言った、アンダーライブを東京ドームでという話が、決して夢ではないと思えます。

 

そもそも乃木坂46は、絶頂にあったAKB48の「公式ライバル」という無茶な状況から始まったグループです。厳しい状況でこそその真骨頂を発揮してくれるところが、このグループの面白いところではないでしょうか。ピンチだから輝けるというのは、とても素晴らしいことだと思います。

小学校図書館向け図書「考えよう!話しあおう!これからの情報モラル」全4巻ができました

これまでも毎年のように小学校図書館向けの書籍の監修をやらせていただいていますが、このたび、監修させていただいた偕成社の「考えよう!話しあおう!これからの情報モラル」全4巻が完成し、先日発売となりました。

 

www.kaiseisha.co.jp

 

監修というと名ばかりのようなこともあるのかもしれませんが、私の場合は編集担当の方とけっこう密に議論をさせていただく形で作らせていただきます。今回も、オフィス303の常松心平さん、酒井かおるさんや偕成社の方々と、基本的にオンラインで議論を重ね、完成に至りました。ちなみに、オフィス303は、今年4月から社名変更、本社移転で、本社は海浜幕張に移転します。

 

office303.co.jp

 

「考えよう!話しあおう!これからの情報モラル」の私なりの見どころをいくつか書いてみると…

 

  • 1巻の1時間目「えっ、それって『うそ』なの?」で、誤情報やフェイクニュースの問題を取り上げています。なぜ誤情報が広がりやすいかという話なども入れています。
  • 1巻の5時間目「フリマアプリで買ったけど……」では、エクスロー方式の説明も入れています。
  • 2巻の2時間目「消えるはずの投稿が拡散!?」では、腹が立つ気持ちのコントロールや空気に流されるということを取り上げています。
  • 3巻の4時間目「ボイスチャットでトラブうるに……」では、最近目立つオンラインゲームのボイスチャットでの悪口の問題を取り上げています。
  • 3巻の6時間目「水着の写真、送っちゃった!」では、自画撮り被害につながる犯罪者の心理テクニックを取り上げています。
  • 4巻の3時間目「上手に写真を撮りたい!」では、GIGAスクール端末での写真撮影に役立つアップとルーズの話を入れています。
  • そして、各巻の巻末には「情報学習の最前線」として、東京学芸大学附属小金井小学校の小池翔太さんによる情報モラル授業の実践の様子を載せてもらっています。(ご協力、ありがとうございました!)

 

多くの学校で活用していただけたら幸いです。

日本教育工学会発表資料「キャリア関連諸能力と『オタク力』との関係」

3月19日(土)〜20日(日)にオンラインで開催されている日本教育工学会 2022年春季全国大会において、渡邉文枝早稲田大学)、見舘好隆(北九州市立大学)、小野憲史(東京国際工科専門職大学)の皆様との共同研究の一環として、「キャリア関連諸能力と『オタク力』との関係」について発表いたします。

 

私たちの共同研究では、「趣味として何らかのことがらに没入することによって獲得/伸長されることが期待される能力であり,他の領域においても活かせると考えられるもの」としての「オタク力」に着目し、企業の人等が「オタク力」にどのような期待を抱いているか等の調査を踏まえ、「オタク力」が活かされる教育や就労のあり方を明らかにすべく、研究を進めています。

 

今回の私が担当する発表では、これまで論じられていたキャリア関連諸能力を「オタク力」との関係から捉え直しています。文部科学省が提唱する「基礎的汎用的能力」をはじめ、「キャラクター・ストレングス」、「ライフキャリア・レジリエンス」、「透過性調整力」、「進路選択自己効力感」を取り上げています。

 

発表資料を以下に掲載します。ご意見等あればぜひお知らせください。

 

発表抄録

発表スライド