藤川大祐 授業づくりと教育研究のページ

藤川大祐のブログです。千葉大学教育学部教授(教育方法学、授業実践開発)。プロフィールは「このブログについて」をご覧ください。

大学×企業×NPO×附属学校連携による特別授業を実施しました

千葉大学大学院教育学研究科には実践的な授業が多くありますが、中でも特徴的なのが附属学校と連携した実践的な授業です。教育系の学部等をもつ国立大学には基本的に附属学校がありますが、多くは所在地が大学と離れた場所です。しかし、幸いなことに千葉大学の場合には、教育学部棟の隣に附属小学校と附属中学校があり、同じキャンパス内に附属幼稚園、少し離れますが同じ千葉市内に附属特別支援学校があります。

 

私が担当している実践的な授業は、「横断型授業づくり実践研究I」(前期)、「横断型授業づくり実践研究II」(後期)で、基本的に附属中学校の3年生徒対象の選択教科の時間に重ねて時間割を組んでいます。選択教科は今の学習指導要領では位置付けられていないのですが、千葉大学教育学部附属中学校では、研究的な意義のある時間として2年生及び3年生で、前期・後期それぞれ13時間程度の枠を設けており、各教員が発展的な内容の授業を実施しています。生徒は期ごとに選択して履修します。この枠は大学と附属学校との連携のためにも使われており、私を含め、何人かの教育学部教員が授業を担当したり、授業に協力したりしています。なお、近年は、継続的に授業を担当する大学教員には「教育学部特命教諭」を教育学部長から発令しています。

 

余談ですが、私はずっとこの選択授業に関わってきたので、教員免許更新講習も受けて免許を更新し、単独ででも選択教科の授業を担当できるようにし、「特命教諭」に発令してもらうつもりだったのですが、そのタイミングで校長になったので、今のところ単独での授業担当にも「特命教諭」発令にも至っていません。なお、初期に私が大学院生たちとともに選択数学の授業を行った成果は、書籍『教科書を飛び出した数学』丸善出版)にまとめられています。

 

大学院の実践的な授業ではこの選択教科の枠で授業を見てもらったり、授業づくりをしてもらったりしてきました。やり方は試行錯誤してきたのですが、今年度の「横断型授業づくり実践研究II」(後期)では、私が理事長をつとめるNPO法人企業教育研究会の協力を得て、大学院生がグループごとに企業と連携した授業づくりを行い、実際に選択教科の時間に授業をすることになりました。

 

ace-npo.org

 

授業づくりにおいては、今回は「企業と学ぶ! データ利活用やロボットプログラミン」をテーマとした選択社会科とすることとし、以下の企業の方々にご協力いただきました。それぞれ企業教育研究会と授業プログラムの開発・提供を行っておられますので、授業プログラムへのリンクも付けておきますので、教材提供や出前授業をご希望の学校関係の方はご参照ください。

 

 

大学院生たちには数名ずつグループに分かれてもらい、各企業が企業教育研究会とともに学校に提供している上記プログラムを中学校3年生向け2時間(50分×2回)にアレンジして授業を行ってもらうこととしました。授業担当グループ以外の大学院生は授業を見て(1月以降は教室に来る人数を減らし、授業の動画を授業後に見てもらうことにしました)、授業後に気づいたこと等を報告してもらいます。

 

各グループの大学院生は企業の担当の方とオンラインで何度も打ち合わせをさせていただき、創意工夫をして授業の準備をしてくれました。他のグループの授業アレンジから学んでもらうことも多かったようです。最初は内容を詰め込みすぎて授業時間が足りなくなることが多かったのですが、徐々に時間に見合った内容構成の工夫も上手にできるようになったようです。

 

日鉄ソリューションズの「K3Tunnel」のサイトにて、「【4】アレンジ例:オリジナルの課題に取り組む」として、今回のアレンジ例をご紹介いただいています。

 

k3tunnel.com

 

大学院生たちがそれぞれの専門分野をもちながら、専門を異にする人たちとともに授業を準備し、実施する機会は大変重要で、教員になった場合には校内外の人々との連携協力を進めることにつながるでしょうし、教育研究者を目指す場合には実践的な感覚をもった研究者となるための素地になるはずです。また、附属中学校の生徒は、作り込まれた授業を集中的に受けられることになります。このような貴重な機会に親身になって協力くださった協力企業の方々に、感謝しています。

 

【2022.3.18追記】

メルカリの mercari education のサイトでも、今回の取り組みをご紹介いただきました。

 

education.mercari.com

福島市長及び福島市議会は問題あるいじめ条例をそのまま放置するのか

各地の教育委員会がいじめ防止対策推進法などに反する対応をして問題になるケースが、後を絶ちません。最近では、福島市で、小学生(当時)がいじめを受け不登校になった問題で、福島市教育委員会の対応に問題があり、調査委員会が報告書で市教委の対応や学校の対応を批判したことが報じられています。

 

www.yomiuri.co.jp

 

この件について私は何度か取材を受け、コメントをしています。最近では、3月3日の読売新聞福島県版の「福島いじめ 両親 再調査求める意向 『妥当性、改めて不信』=福島」(リンクは検索結果画面)という記事に、以下のコメントを載せていただきました。

 

いじめ問題に詳しい千葉大の藤川大祐教授(教育方法学)「大人に裏切られたことによる子どもの苦痛は深刻で、市教委は謝罪をし責任を取るために関係者の処分も検討するべきだ。法律を守れない教育委員会は全国にあり、都道府県や国など、上級の行政組織への申し立てや相談ができる仕組み作りも必要だ」

 

教育委員会が法律を守らないための相談窓口の設置は、喫緊の問題だと考えています。昨年10月には、思いを同じくする方々とともに文部科学省記者クラブで会見を行って政策提言を公表させていただきましたが、その中にも相談窓口の設置を提起させていただきました。ぜひ、文部科学省や国会議員の方々には検討をお願いしたいです。あるいは、「こども家庭庁」の課題になるのかもしれません。

 

ijime-platform.com

 

福島市教委は被害者側に謝罪したようですし、今後再調査が行われたりする中で、関係者の責任が明らかになってくるものと期待したいと思います。私としては現段階で特に、福島市の条例の問題について指摘しておきたいと考えています。

 

このいじめ事案については、当初から福島市教委の法令解釈が問題となっていました。以下の読売新聞2020年9月19日付記事で詳しく報じられています。

 

www.yomiuri.co.jp

 

記事にあるように、重大事態の疑いがあれば重大事態として調査することが基本なのですが、福島市いじめ防止等に関する条例では、重大事態について次のように定めています。

 

 (教育委員会による対処)

第二十条 教育委員会は、前条の規定による報告を受けた場合又は市立学校に在籍する児童等若しくはその保護者から当該市立学校に対して当該児童等に重大事態が発生し、若しくは発生した疑いがあると申立てがあった場合であって必要があると認めるときは、当該報告又は申立てに係る重大事態に対処し、及び当該重大事態と同種の事態の発生の防止に資するため、速やかに、第二十二条第一項に規定する福島市いじめ問題対策委員会に調査を行わせるものとする。

 

問題は赤字部分です。教育委員会が「必要があると認めるとき」でないと、重大事態としての対処を行わないと読めてしまうのです。実際、この事案においては、記事にあるように、当初はこの条例を根拠に、市教委は重大事態としての対処を必要とは認めませんでした。

 

ちなみに、いじめ防止対策推進法では、重大事態の対応について次のように定められています。

 

(学校の設置者又はその設置する学校による対処)
第二十八条 学校の設置者又はその設置する学校は、次に掲げる場合には、その事態(以下「重大事態」という。)に対処し、及び当該重大事態と同種の事態の発生の防止に資するため、速やかに、当該学校の設置者又はその設置する学校の下に組織を設け、質問票の使用その他の適切な方法により当該重大事態に係る事実関係を明確にするための調査を行うものとする。
一 いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき
二 いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき
2 学校の設置者又はその設置する学校は、前項の規定による調査を行ったときは、当該調査に係るいじめを受けた児童等及びその保護者に対し、当該調査に係る重大事態の事実関係等その他の必要な情報を適切に提供するものとする。
3 第一項の規定により学校が調査を行う場合においては、当該学校の設置者は、同項の規定による調査及び前項の規定による情報の提供について必要な指導及び支援を行うものとする。

 

赤文字のように「認めるとき」という表現は出てくるのですが、あくまでも「疑いがあると認めるとき」となっており、ここに記されているような重大な被害が生じていることが疑われた場合には、教育委員会等が調査の必要性について判断するという段階を踏むことなく、調査をしなければならないと規定されています。福島市の条例では、この部分が「必要があると認めるとき」という似て非なる表現になっており、市教委に重大事態としての対処が必要かどうかを判断する裁量を与えていると読めるものとなりました。

 

法律に従っているように見せながら法律に従うことを拒否するようなこの条例は、悪質なものです。福島市長や福島市議会は、この条例をこのまま放置すべきではありません。法律に従う形で条例改正を行うことはもちろん、条例案の制定の経緯を調査し、誰がどのような意図で「必要があると認めるとき」という文言を入れ込んだのかを明らかにすべきです。条例は市議会で制定したものですから、市議会議員の方々の責任は重いはずです。

18歳成人制スタートであらためて注目したい消費者トラブル問題

今年4月から、成人年齢が引き下げられ、18歳から成人となります。当事者たちが特に望んだわけではないのに、高校生なら多くの人が卒業前に「大人」ということになってしまいます。酒やタバコは20歳以上でないと認められない一方で、契約については一人前となります。

 

そこで気になるのが、契約上のトラブルです。民法では、未成年者が契約をするには法定代理人の同意を得なければならず、同意を得ないでなされた契約は本人や法定代理人が取り消せることが定められています。ですから、未成年であれば、自分で高額の商品やサービスの契約をしてしまっても、取り消せる可能性がありました。4月からは、18歳・19歳の人にこの規定が適用されなくなり、自分で契約をしたらいかに自分が未熟だからといっても取り消せないことになります。

 

詐欺や悪徳商法をしようとしている人は、当然、18歳・19歳をターゲットにするでしょう。国民生活センターのホームページには、「18歳・19歳に気を付けてほしい消費者トラブル 最新10選」という記事があり、大変参考になります。

 

www.kokusen.go.jp

 

特に、以下の「最新10選」には注目したいです。

 

18歳・19歳に気を付けてほしい消費者トラブル 最新10選

  1. 副業・情報商材やマルチなどの"もうけ話"トラブル
  2. エステや美容医療などの"美容関連"トラブル
  3. 健康食品や化粧品などの"定期購入"トラブル
  4. 誇大な広告や知り合った相手からの勧誘など"SNSきっかけ"トラブル
  5. 出会い系サイトやマッチングアプリ"出会い系"トラブル
  6. デート商法などの"異性・恋愛関連"トラブル
  7. 就活商法やオーディション商法などの"仕事関連"トラブル
  8. 賃貸住宅や電力の契約など"新生活関連"トラブル
  9. 消費者金融からの借り入れやクレジットカードなどの"借金・クレカ"トラブル
  10. スマホやネット回線などの"通信契約"トラブル

 

美容関連や定期購入のトラブルは、「無料」「初回500円」などの表示がある場合に、初回だけの申し込みのつもりが実際には定期契約になっていて、2回目以降の料金は高額になっていて、解約も容易にできないというようなものがあるようです。このような紛らわしい契約手法について知っておくことがあるかないかで、トラブルに巻き込まれる可能性が大きく変わってくるのではないでしょうか。

 

気をつけなければならないのは、18歳未満の人でも、自分が18歳以上であると偽った場合等においては、契約の取り消しが困難になるということです。

 

民法の規定を確認しておきましょう。

 

(未成年者の法律行為)
第五条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
 第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。

 

このように、民法第5条第2項において、未成年者が法定代理人の同意を得ずになされた法律行為については、取り消すことができると定められています。このことから、未成年者が保護者に無断で行った契約は取り消すことが可能ということになるわけです。
 
ただし、取り消しが認められない場合もあります。たとえば以下の場合です。
 
・小遣い等の場合
 民法第5条第3項で、「目的を定めないで処分を許した財産を処分するとき」は未成年が自由に処分できることが定められています。これはすなわち、保護者が未成年者に対して自由に使ってよいとして小遣いを与えた場合のことと言えます。
 
・詐術を用いた場合
 以下の民法第21条に定められているように、法律行為をする能力が制限されている者が行為能力があることを信じさせるために詐術をした場合には、取り消しができません。すなわち、未成年者が成年者のふりをして契約を無断で行った場合には、取り消しができないということになります。
 
制限行為能力者の詐術)
第二十一条 制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。
 
こうしたことを踏まえると、18歳・19歳だけではなく、18歳未満でも契約の際に必ずしもいつも契約取り消しができるわけではなく、注意が必要だということがわかります。
 
子どもたちが成長していく過程で、契約についてよく理解しておくことは大変重要です。18歳成人制スタートを機に、こうした学習の重要性をあらためて認識しておければと思います。

内閣府「令和3年度 ⻘少年のインターネット利用環境実態調査」の注目ポイント

先日、内閣府より「令和3年度 ⻘少年のインターネット利用環境実態調査」の結果の速報が発表されました。

 

www8.cao.go.jp

 

この調査は、青少年のインターネット利用に関する政策の基礎となるデータを毎年とっているものですので、注目していただきたいと思います。

 

私が毎年特に注目している箇所は以下の通りです。

 

1)スマホ利用率

2)インターネット利用目的

3)インターネット利用時間

4)フィルタリングの利用率

 

今回の結果では、以下のようになりました。

 

1)スマホ利用率については以下のグラフの青い線を見るとわかるように、小学生、中学生、高校生いずれの段階でも大きな変化はありません。スマホ利用率増加の勢いが止まりつつあることがわかります。

 

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2)インターネット利用目的については、「投稿やメッセージ交換をする」が減り、「検索する」「勉強をする」が大きく伸びています。文字中心のSNSの利用にブレーキがかかっていることと、学習目的の利用が増えていることがうかがわれます。「音楽を聴く」や「漫画を読む」も増えていて「動画を見る」も増えていることから、文字から音声・画像・動画へのシフトが進んでいることがわかります。

 

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3)インターネット利用時間では、学習時間が大きく伸びていることがわかります。他方、趣味・娯楽の時間も大きく増えていて、保護者・友人等とのコミュニケーションの時間も2年間低めだったのがまた増えています。コロナ禍で外出等が制限され、学習だけでなく他の目的も含め、インターネット利用時間が増えたことがわかります。

 

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4)フィルタリングの利用率はスマートフォン普及以降かなり低くなっていたのですが、ここ数年少しずつ上昇しており、今回もある程度上昇しました。

 

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以上から言えることは、やはりコロナ禍の影響でインターネット利用時間が増え、特に学習での利用時間が大きく増えているということが特筆すべきことで、他には大きな変化はないということです。一言加えるとすれば、文字によるコミュニケーションから音声・画像・動画へというシフトが見られますので、今後こうしたシフトが進んでいくのかには注意をしていきたいと思います。

 

なお、この調査の結果については、企画分析会議メンバーの竹内和雄先生(兵庫県立大学)がすでに以下の記事を発表されています。

 

news.yahoo.co.jp

 

竹内先生が指摘されているように、長時間利用や乳幼児期からの利用については要注意であり、子どもや保護者と教育関係者等が議論していくことが必要です。なお、当初はスマホ所持率が大きく伸びているかのような記載があったのですが、上に書いたようにスマホ利用率はむしろ増加が止まりつつある状況です。この点については修正されていますので、ご注意ください。

乃木坂46の11年目とヴァルネラビリティ

【以下の文章は、3月2日に書いて3月4日朝に投稿予定っだったものです。3月3日に乃木坂46公式サイトにて中西アルノさんの活動自粛が発表されて状況が変わりましたが、この文章は変更せずに載せたいと思います。】

 

今夜は21時からネット番組「乃木坂白熱論争」に出演させていただくので、今日のブログはいつもと少し趣向を変えて、乃木坂46について書きます。エンターテインメントを教育に活かすことが私のライフワークなので、たまにはこのような記事を書くことをおゆるしください。以下、基本的に敬称略で書きます。

 

www.youtube.com

 

乃木坂46が「ぐるぐるカーテン」でデビューしたのが2012年2月22日で、先日デビューから10周年を迎え、11年目に入りました。生駒里奈西野七瀬白石麻衣生田絵梨花といった1期生のセンター経験者がここ数年で次々と卒業するなど、グループの状況は大きく変わりつつあります。

 

乃木坂46の魅力を私なりに一言で言えば、「弱さゆえの強さ」ということだと思います。それらしい言葉を使うと、「ヴァルネラビリティ(valnerability)」があるということです。彼女たちは繰り返し弱さをさらけ出します。しかし、その弱さゆえに、さまざまなドラマが生まれ、負の意味合いをもっていたことがらの意味合いを変えてしまうという意味での強さを発揮することがしばしばあります。全盛期のAKB48の「公式ライバル」という位置付け、選抜とアンダーの分断、7時間半にわたる極寒の西武ドームでのライブ、AKB48ととのメンバー兼任、確実視されていた2014年のNHK紅白歌合戦の落選、46時間連続のネット番組生放送といった試練の中で傷ついたり疲れたり姿を見せながら、そうした試練をプラスに変えてグループを成長させる力を発揮し続けてきました。

 

そうした中で、乃木坂46の特徴としてよく挙げられるようになったのが、メンバーの仲の良さでした。メンバーたちがよく、他のメンバーのことを「こんなにいい人たち」というような言い方をします。彼女たちはグループ内の役割は違っても、数々の試練の中で互いの弱さを認めながら支え合う関係を築いているのだと感じます。

 

ここ数年は、そうした運営側等から与えられる試練より、中心メンバーの卒業、メンバーの多忙さ、そしてコロナ禍での活動の制約といった別の要因が、試練となっていたように思います。11年を迎えた今、10年前とはガラッと変わってしまったメンバーでどのようにして乃木坂46としての活動を続けていくのかが課題になっていることは間違いありません。

 

このタイミングに向けて、運営側は打てるだけの手を打ってきたように思います。3期生や4期生が活躍する場を設けるとともに5期生のオーディションを進めつつ、10年の集大成で昨年末にベストアルバムを出して生田絵梨花新内眞衣の卒業ソロ曲を収録し、10周年のタイミングで5期生と新曲を披露しています。歴史的倍率のオーディションを勝ち抜いた5期生たちはそれぞれ魅力的で、新たな乃木坂46が始まることを期待させます。お披露目からすぐに新曲センターを務める中西アルノは抜群の歌唱力を誇り、パフォーマンスも堂々としています。

 

今、この中西アルノのセンター起用については、否定的な意見も多く出ています。彼女のデビュー前のネット発信等について詮索したり、彼女がかつての欅坂46平手友梨奈に近い雰囲気があって曲も欅坂46みたいだという議論があります。

 

このように一筋縄ではいかないところが乃木坂46らしいと感じますし、乃木坂46という場がこうした問題をどのように昇華していくかに注目したいと思います。今、もしかしたらグループ内は大変な状況になっているのかもしれませんが、私は5期生が入った乃木坂46をこれから見ることが楽しみです。

主権者教育は、投票率向上目的であってはならない

このほど、藤川大祐編「多様化時代における主権者教育に関する研究」 (人文公共学府研究プロジェクト報告書第372集)が完成し、インターネットで公開となりました。

 

ace-npo.org

 

私たちの研究室では毎年3月に研究室紀要『授業実践開発研究』を発行していますが、2010年度からはこれに加え、プロジェクト研究報告書という冊子も発行しています。このプロジェクト研究報告書は、私が博士後期課程を担当している千葉大学大学院人文公共学府で出されているものであり、毎年博士後期課程の学生が中心となって企画し、人文公共学府でプロジェクトを認めてもらって発行しているものです。

 

プロジェクト研究報告書には毎回テーマがあります。今回は初めて、主権者教育をテーマにしました。研究室に所属する学生たちの中で主権者教育についての関心が高まっており、今年度は、千葉大学教育学部附属中学校の総合的な学習の時間のゼミで学生たちが担当者となって関連する授業を「アドボカシーゼミ」として行うなどの取り組みをしてきました。私の研究室の学生が附属中学校の授業の一部を担当させてもらうのは2010年度からやっていることで、当然ですが私が校長になるよりはるか前からです。

 

私個人としても、主権者教育については一度しっかりと取り組んでみたいと考えていました。私は1990年台からディベート教育に関わってきており、中高生などの主権者としての資質を育てるためにディベートは重要だということはいつも考えてきたのですが、では主権者を育てる教育はどうあるべきかという問題については正面から取り組む機会を作れていませんでした。今回は私個人としてもある程度力を入れて、報告書の巻頭論文として、主権者教育論を書かせてもらいました。

 

私の論文はぜひお読みいただきたいのですが、ここで1点だけ述べると、主権者教育は、投票率向上目的になされるべきものではないだろう、ということがあります。主権者教育が語られる際には、必ずといってよいほど、若年層の投票率が低いこともセットで語られます。そして、あたかも若年層の投票率を上げることが、主権者教育の目的のようにされます。その結果なされる教育は、民主主義は大切で、だから投票も大切で、みなさん投票に行きましょうという意図が見え隠れするものになる場合が多いように思われます。

 

でも、主権者たるもの、自分で判断できるようでなければならないはずで、投票することを疑わせず投票を促すというのは、本来の主権者教育とは逆方向の営みになってしまうのではないでしょうか。むしろ、主権者教育は投票率向上を目的とはしないとはっきり言い切った方が、主権者教育のあるべき姿がはっきりするのだろうと思います。論文中で詳しく述べていますが、投票率向上のためには、スマホでの投票を可能にするなど、投票コストを下げることをもっと真剣に検討すべきです。

 

では、私が考える主権者教育とはどのようなものか。キーワードは、「エージェント指向学習」です。詳しくは報告書をお読みいただければ幸いです。

 

ロシアのウクライナ侵攻 理念なき権威主義はどこに向かうのか

ロシアがウクライナに侵攻し、西側諸国が経済制裁等を進めているものの、ウクライナ国内の戦火が広がり、一般人の犠牲者が増えていることが連日報じられています。冷戦後の世界にあって、一つの国が他の国を公然と攻撃し、多くの国から批判されても攻撃が止まらないというのは、他にあまり例がないことです。私は教育に携わる者として、現に起こっているこうした問題について、自らの言葉で語らなければと考えてきました。稚拙かもしれませんが、考えていることを書いてみたいと思います。

 

ロシアと欧米など西側諸国が対立している構図は、権威主義と民主主義(あるいは自由主義)の対立として捉えられます。ロシアは自由や民主主義が制限されている権威主義政治の国であり、西側諸国は自由と民主主義という理念を共有している国で、双方の政治のあり方が対立していると見られるわけです。社会主義共産主義と資本主義との対立だった東西冷戦と、似た枠組みで捉えられるように見えます。しかし、現在のロシアには、冷戦期の社会主義のような理念はなく、自らの国のあり方を正当化することができていないように見えます。

 

ロシアがウクライナに侵攻した背景については、たとえば次の記事が私には納得のいくものでした。ロシアの「国外の同胞の権利、利益の保護、ロシア文化のアイデンティティの維持」という考え方からすると、ウクライナNATOに加盟することは何としても避けたかったということなのでしょう。

 

toyokeizai.net

 

しかし、他国から見ればこうしたロシアの態度は自国の勝手な都合で軍事侵攻をしたということにしかなりません。中国などロシアをやんわりと支持しているように見える国もありますが、理念なき侵攻について大っぴらに支持をすることはできないものと思われます。理念なきロシアは、この戦争がどうなったとしても、世界の中で孤立し、立ち往生していくのではないかとも思われます。

 

ただ、自国とか多数派の民族の都合で国を動かしたいという誘惑は、西側諸国にも見られ、近年はアメリカのトランプ政権やイギリスのEU離脱に代表されるように、非常に大きな力を発揮するようになっています。下記の書籍で言われているように、まさに「権威主義の誘惑」が西側でも政権に大きな影響を与えるようになっているわけです。

 

www.amazon.co.jp

 

アメリカはバイデン政権になり、昨年12月に「民主主義サミット」を開催するなど、民主主義の理念を掲げて権威主義の誘惑とは異なる路線に進もうとしているように見えます。とはいえ、「世界の警察」の役割を担わないこととしているアメリカは、アフガニスタンからの撤退に続いてウクライナにも軍事介入しないことを宣言し、あくまでも自国(や同盟国)の損得のために動くという立場をとっています。アメリカが「世界の警察」の役割を担わないのはよいとしても、理念なき権威主義国の他国への侵攻を抑止する仕組みがないのであれば、ロシア側からすれば、みんな自分たちの都合で勝手にやっていて五十歩百歩だという話になりそうで、嫌だなと思います。

 

下記の記事を見ると、今回の戦争が長期化しても、ロシアもアメリカも自国の経済においては困らないようです。戦争は強者には利益を生み、弱者からは多くのものを奪う、ということなのでしょうか。社会科教育や主権者教育で民主主義を無条件に肯定した議論をしている場合ではなく、民主主義の危機や権威主義の行く先について考えられるようにすることが、求められているのだと考えます。

 

president.jp