藤川大祐 授業づくりと教育研究のページ

藤川大祐のブログです。千葉大学教育学部教授(教育方法学、授業実践開発)。プロフィールは「このブログについて」をご覧ください。

小学校図書館向け図書「考えよう!話しあおう!これからの情報モラル」全4巻ができました

これまでも毎年のように小学校図書館向けの書籍の監修をやらせていただいていますが、このたび、監修させていただいた偕成社の「考えよう!話しあおう!これからの情報モラル」全4巻が完成し、先日発売となりました。

 

www.kaiseisha.co.jp

 

監修というと名ばかりのようなこともあるのかもしれませんが、私の場合は編集担当の方とけっこう密に議論をさせていただく形で作らせていただきます。今回も、オフィス303の常松心平さん、酒井かおるさんや偕成社の方々と、基本的にオンラインで議論を重ね、完成に至りました。ちなみに、オフィス303は、今年4月から社名変更、本社移転で、本社は海浜幕張に移転します。

 

office303.co.jp

 

「考えよう!話しあおう!これからの情報モラル」の私なりの見どころをいくつか書いてみると…

 

  • 1巻の1時間目「えっ、それって『うそ』なの?」で、誤情報やフェイクニュースの問題を取り上げています。なぜ誤情報が広がりやすいかという話なども入れています。
  • 1巻の5時間目「フリマアプリで買ったけど……」では、エクスロー方式の説明も入れています。
  • 2巻の2時間目「消えるはずの投稿が拡散!?」では、腹が立つ気持ちのコントロールや空気に流されるということを取り上げています。
  • 3巻の4時間目「ボイスチャットでトラブうるに……」では、最近目立つオンラインゲームのボイスチャットでの悪口の問題を取り上げています。
  • 3巻の6時間目「水着の写真、送っちゃった!」では、自画撮り被害につながる犯罪者の心理テクニックを取り上げています。
  • 4巻の3時間目「上手に写真を撮りたい!」では、GIGAスクール端末での写真撮影に役立つアップとルーズの話を入れています。
  • そして、各巻の巻末には「情報学習の最前線」として、東京学芸大学附属小金井小学校の小池翔太さんによる情報モラル授業の実践の様子を載せてもらっています。(ご協力、ありがとうございました!)

 

多くの学校で活用していただけたら幸いです。

日本教育工学会発表資料「キャリア関連諸能力と『オタク力』との関係」

3月19日(土)〜20日(日)にオンラインで開催されている日本教育工学会 2022年春季全国大会において、渡邉文枝早稲田大学)、見舘好隆(北九州市立大学)、小野憲史(東京国際工科専門職大学)の皆様との共同研究の一環として、「キャリア関連諸能力と『オタク力』との関係」について発表いたします。

 

私たちの共同研究では、「趣味として何らかのことがらに没入することによって獲得/伸長されることが期待される能力であり,他の領域においても活かせると考えられるもの」としての「オタク力」に着目し、企業の人等が「オタク力」にどのような期待を抱いているか等の調査を踏まえ、「オタク力」が活かされる教育や就労のあり方を明らかにすべく、研究を進めています。

 

今回の私が担当する発表では、これまで論じられていたキャリア関連諸能力を「オタク力」との関係から捉え直しています。文部科学省が提唱する「基礎的汎用的能力」をはじめ、「キャラクター・ストレングス」、「ライフキャリア・レジリエンス」、「透過性調整力」、「進路選択自己効力感」を取り上げています。

 

発表資料を以下に掲載します。ご意見等あればぜひお知らせください。

 

発表抄録

発表スライド

学校・保育所等のコロナ対策をもっと優先できないか

1月以降、コロナ感染者の増加が急激だった一方で、増加が止まって以降の現象は緩やかです。小中学校や幼稚園、保育所などで感染者が頻繁に出ており、インフルエンザのように子どもが媒介となって感染が広がり続けているのではないかと思われます。症状もインフルエンザと同じくらいの人が多いようですが、感染者が出ると同居家族は濃厚接触者として行動を制限されます。リモートワークができる仕事ならまだよいでしょうが、医療関係者や教育・保育関係者など出勤できないと困る人もいます。

 

コロナ禍の状況もかなり変わってきて、今や学校等での子どもを媒介とする感染をどれだけ止められるかの優先順位が高くなってきているのではないでしょうか。しかし、これまでの日本の状況では、学校や保育所等に関する対策があまり優先されてきていないように思われます。具体的には、以下の通りです。

 

  • ワクチン1・2回目について、教員等の優先接種があまり徹底されておらず、昨年夏休みまでに教員等の2回目までの接種があまり終わらなかった。
  • 12歳から18歳までのワクチン1・2回目接種がなかなか進まなかった。
  • 学校等でのエアロゾル感染防止が徹底されず、CO2モニター配布等の有効と思われる策があまり講じられていない。
  • 12歳未満のワクチン接種がなかなか始まらなかった。
  • 教員等のワクチン3回目接種を迅速に進める様子がない。
  • 感染者の同居家族は自動的に濃厚接触者となってしまい、ワクチン3回接種で無症状でも最低5日間は行動制限を受ける。

 

各論ではさまざまな意見があるかもしれませんが、子どもの感染の影響が多くなっている以上、今後に向けて学校等における対策の優先順位を上げることが必要であるはずです。今後に向けて、以下のことを検討してほしいと思います。

 

  • 教員等及び高校生以下の児童等については、医療・福祉関係者の次くらいのレベルで優先的にワクチン接種が受けられるようにする。
  • CO2モニターの配布等を進め、学校等におけるエアロゾル感染防止を徹底する。
  • 感染者の同居家族であっても、無症状かつワクチン接種から一定期間内のエッセンシャルワーカー(教員等を含む)については、抗原検査陰性を条件に行動制限を免除もしくは1〜2日程度に短縮する。

 

もちろん、学校等で感染者が出た場合には、そのときのウイルスの特性に応じて、1日から数日の機動的な学級閉鎖措置をとる等、現状のままでもできることはしていくことが前提です。

 

学校等で子どもが感染の媒介となるような状況をできるだけ止める必要があります。学校等における対策の優先順位を上げる方向の検討が進められることを願っています。

多摩川スカイブリッジを歩いてきました

いろいろな場所を歩くのが好きなので、今回はそんな話題で。昨日、開通したばかりの多摩川スカイブリッジを歩いてきたので、その話を書きます。

 

スタートは、東京モノレール羽田空港第3ターミナル駅。以前は国際線ターミナルと言われていた第3ターミナルの3階に直結されている駅です。2階には京急羽田線の駅もあります。

 

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ターミナルから徒歩で外に向かって道に出るのが難しく、10分ほど迷ってようやく脱出に成功。それからさらに10分ほど歩くと、多摩川に面した道に出ました。多摩川の羽田側の道は遊歩道になっており、休憩スペースがいくつも設けられています。休憩スペースの向こうに、多摩川スカイブリッジが見えます。

 

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多摩川スカイブリッジには車も歩く人も多く訪れていました。

 

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歩行者は下の道から階段を上ると、多摩川スカイブリッジの上に行けます。けっこう高いので、風が強いと少し怖いかもしれません。

 

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橋の上からは、羽田空港の駐機場らしきものが見えます。

 

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川崎側は、工場が多い場所です。左側はヨドバシカメラと書いてありました。倉庫なのでしょうか。写真右側に「キングスカイフロント」という産業拠点が作られるようです。なお、写真左側に写っているように、歩道と自転車道との間に段差があり、油断していると転倒します(私は軽く転倒しました)。

 

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川崎側は、京急大師線終点の小島新田駅まで徒歩約15分。この駅はもともとは終点ではなかったようですが、当時の国鉄が貨物駅を整備するにあたって大師線が一部廃線となり、終点になったようです。下の写真は、その貨物駅だったらしき場所。

 

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たっぷり1時間くらい歩いて、小島新田駅に到着しました。大師線は10分ごとに電車が出ていて、便利。京急川崎駅まで、10分ほどで到着しました。途中、川崎大師前と思われる方も多く乗車されました。

 

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以下、考えたことを書きます。

 

1)川崎側と羽田空港がほぼ直結することは間違いなく、川崎側にホテルや国際会議場などの施設ができる等して空港の機能を一部持つようになると、川崎や横浜が大きく発展するのではないかと思いますし、羽田周辺が国際交流の空間として大きく発展することも考えられます。他方、羽田側では橋からの道が川沿いの道に合流する構造となっており、自動車の交通量が増えたときに渋滞が起きるのではないかと懸念されます。少しずつ様子を見ながら活用を進めていくのかなと思いました。

 

2)スカイブリッジを経由して羽田空港・小島新田間を歩くのは、なかなか楽しい散歩コースだと思います。ただ、現場ではこのコースを散歩することは特に推奨されていないようで、羽田空港側にも小島新田側にも、スカイブリッジ方面を示す表示などはありませんでした。人がいっぱいになって困ることはなさそうでしたが、車が多く来てしまうと渋滞しそうな構造だったので、あまり観光需要を喚起することはしないのかなとも思いました。

 

3)関連して、羽田空港から徒歩で外に出るルートについては全くと言ってよいほどアナウンスされていないのですが、これを機に徒歩ルートの案内をもっと行うことが検討されてよいのではないかと思います。というのは、飛行機の到着が遅れて深夜になり、鉄道は終わっていて空港のタクシー乗り場は長蛇の列ということがあるからです。依然そうした状況だったときに、蒲田あたりまで歩いてタクシーをつかまえようかと思ったことがありましたが、ターミナルから徒歩で出るルートがわからず諦めてターミナル内で夜明かししたことがありました。深夜に歩きたいという人は多くないかもしれませんが、今後は多摩川まで歩きたいという人が多くなると思われます。徒歩移動への対応が検討されてもよいと思います。

 

4)スカイブリッジでは、歩道と自転車道との間に段差があります。これが非常に歩くづらく、危険です。おそらく、他にこういう段差のある道路があまりなく、私たちが慣れていないせいだと思います。人を避けるためなどのときに、歩道から自転車道にはみ出したくなることがありますが、これをすると転倒の危険があります。自転車と歩行者を完全に分けたいのであれば、間にガードレールがあるとよいと思います。

 

ということで、このような話題もときどき書いていけたらと思っています。

ランダム性を取り入れたデザイン論に向けて

愛読させていただいているPLANETSのメールマガジンの今日の号に興味深い記事があったので、忘れないようにここに書いておきます。落合陽一さんによる「マタギドライヴ」の連載の最終回です。

 

wakusei2nd.com

 

そもそも「マタギドライブ」って何というのはこの連載を読んでいただきたいのですが、「マタギ」とは東北地方などの山岳地帯で狩猟をする人々のことだということは踏まえておいてほしいと思います。(個人的にはマタギというと岩手県を連想し、3.11の今日のこの日ともつながっていると感じています。)

 

落合さんは次のように書いています。

 

 (略)現代の資本主義システムが適切な再分配構造を持たないことで生じる格差については、ラディカルに確率論を導入していかないと解決に向かわないと考えています。実際問題、お金や実力があっても、試験に落ちたり、選別から外れたりする人は確率的に出てきます。つまり、実力主義に立脚した公正性だけに依拠するのではなく、ある程度は運の要素をパラメーターに入れた上で制度設計をしないと、格差は解消できない。オードリー・タンとの対談でもそうした話になりましたし、マイケル・サンデル『実力も運のうち──能力主義は正義か?』でも同様の議論がなされていました。
 このようにある種の確率論なしには社会が成立しえないという認識は、これから経済政策をめぐる領域などで一般的な認識になっていく可能性が高いです。

 

要は、運とか偶然といったランダム性を含めないと社会は成立しえないという話です。素朴に考えると、能力とか努力といったものが適切に評価され、偶然悲惨な目に遭うようなことがなくなればよいと思われるかもしれません。しかし、落合さんは、それを否定します。ランダム性がなくなってしまえば、「最適化の罠」から逃れられず、「人間は連結されたコンピューター以上でも以下でもないものになってしまう」(連載第9回)と言っています。

 

落合さんが言及しているマイケル・サンデルはどうでしょうか。

 

www.amazon.co.jp

 

サンデルは次のように書いています。

 

人はその才能に市場が与えるどんな富にも値するという能力主義的な信念は、連帯をほとんど不可能なプロジェクトにしてしまう。いったいなぜ、成功者が社会の恵まれないメンバーに負うものがあるというのだろうか? その問いに答えるためには、われわれはどれほど頑張ったにしても、自分だけの力で身を立て、生きているのではないこと、才能を認めてくれる社会に生まれたのは幸運のおかげで、自分の手柄ではないことを認めなくてはならない。自分の運命が偶然の産物であることを身にしみて感じれば、ある種の謙虚さが生まれ、こんなふうに思うのではないだろうか。「神の恩寵か、出自の偶然か、運命の神秘がなかったら、私もああなっていた」。そのような謙虚さが、われわれを分断する冷酷な成功の倫理から引き返すきっかけとなる。能力の専制を超えて、怨嗟の少ない、より寛容な公共生活へ向かわせてくれるのだ。

マイケル サンデル. 実力も運のうち 能力主義は正義か? (Japanese Edition) (p.325). Kindle 版.

 

サンデルは、能力主義が分断につながり、幸運に感謝することが連帯につながると言いたいのでしょう。

 

サンデルは、大学入試に抽選制を取り入れることを提案しています。私はあえて抽選制を取り入れなくても、1回限りの試験でたまたまできたりできなかったりするという幅がある程度あるようであれば、それでよいのではないかと考えます。この考え方は、数学者で「水道方式」の創始者である故・遠山啓が能力主義を批判して論じていた議論に依拠しています。

 

amzn.to

 

落合さんは、ソーシャルデザインにランダム性を取り入れようと考えておられるのだと思います。私はこのことに賛成ですし、教育に関するデザインにもランダム性を取り入れることが必要と考えます。こうしたことを進めるためには、ゲーム論の知見が役にたつでしょう。

 

ランダム性を取り入れたデザイン論という考え方が、求められるのではないかなと考えています。

明治図書『授業力&学級経営力』誌で連載「教育問題24時」スタート

2022年度、明治図書『授業力&学級経営力』誌で、「教育問題24時」という連載をさせていただくことになりました。

 

www.meijitosho.co.jp

 

このほど、4月号の掲載誌が手元に届きました。第1回となる4月号のテーマは「学校における働き方」。制度面での紹介も含め、教員の働き方をめぐるポイントを解説させていただいています。

 

今後も、教育に関係するさまざまなテーマを取り上げ、解説的な記事を書いていきます。テーマのリクエストなどあれば、お知らせください。

 

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東日本大震災から11年経って思うこと

東日本大震災の発生から11年が経ちました。あらためて私なりの視点で当時のことを、当時のブログ記事をたどりながら振り返ってみたいと思います。

 

震災発生直後に私がしていたことは、首都圏にいながら何ができるかを探ることしかありませんでした。まずは、直接被害がなかった学校で考えてほしいことを書き、発信しました。

 

daisukef.hatenablog.com

 

また、テレビ報道について、悲惨な映像を控えること、通常編成に戻すこと、無責任なバッシングをしないこと等の提言を発信しました。

 

daisukef.hatenablog.com

 

学生のお父様が福島県田村市で働いておられるということで、学生たちとともに田村市を「情報」で支援できないかと考え、微力ながら活動を始めました。この年の5月には実際に田村市にお邪魔して現地でお話をうかがうこともさせていただきました。

 

daisukef.hatenablog.com

 

daisukef.hatenablog.com

 

この年の5月には札幌で開かれたCIEC第90回研究会にて、「震災とメディアの活用〜リテラシーと情報支援を中心に〜」というテーマで話をさせていただきました。

 

daisukef.hatenablog.com

 

また、9月には、首都大学東京で開催された日本教育工学会の全国大会で、「東日本大震災以降の情報支援とメディアリテラシー」というテーマで発表をさせていただきました。

 

daisukef.hatenablog.com

 

当時のブログを読むと、2011年4月には新年度が始まってしまい、6月くらいからは、千葉授業づくり研究会、「明日の教室」東京分校、メディアリテラシー教育研究会、関西授業づくり研究会、千葉大附属中での選択教科の授業、ディベート甲子園、西千葉子ども起業塾麻布高校での特別授業、大学院の「教科教育科学特論I/II」の授業等があり、被災地支援等の活動はあまりできていないことがわかります。この頃、私は大学で今のような役職に就いておらず、学生たちとともに教育実践に関わる活動をいろいろと進めていたときでした。今思うと、東日本大震災があっても、すぐに日常に戻ってしまったのだなと感じています。

 

このように何もできなかったという思いはずっと残っています。その後、2012年度からは、大学で担当している「ディベート教育論」の授業において、原子力発電環境機構にご協力いただいて、高レベル放射性廃棄物の処分問題を論題で取り上げるようにしました。福島第一原子力発電所の事故をふまえ、教職を学ぶ学生たちが放射能に関して多面的に学ぶ機会を確保したいと考え、現在も続けています。続けてきたことと言えば、これくらいかなと思います。

 

なお、AKB48ファンである私にとっては、AKB48の被災地支援の活動からは学ぶことが多くありました。AKB48との縁が強い岩手県山田町に何度か訪れて取材をさせてもらったりして、編集長をしていた『授業づくりネットワーク』で取り上げたりもしました。この頃、現地の方から聞いた話では考えさせられることが多くありました。最近、復興道路が全通したり鉄道も復旧したりして、山田町への交通が便利になったようですし、また訪れてみたいです。

 

www.amazon.co.jp

 

今、私たちは2年以上コロナ禍の影響を受け、できなかった活動もたくさんあります。このコロナ禍と比べるのもおかしいのかもしれませんが、東日本大震災はもっと長い間、被災地の方々に大きすぎる影響を与えてきたのに、首都圏にいる私たちはそうした時間をあまり共有できていなかったのだということを考えさせられています。